体験してわかる、ものの価値
鎌田:洋服の全生産工程にいる人たちとつながることは難しいこともあって、私はコットンを種から育てて服を作る「服のたね」という企画を主宰しています。種を撒くところからコットンを育てるのですが、虫がくるとつい「薬を撒きたい」と思ってしまいます。でも薬を使ったらオーガニックではなくなります。やってみると、オーガニックがどれだけ大変なのかわかるんです。単に情報として農薬は良くないと思っているのと、実際に自分で体験してみて大変さを知っているのでは、「オーガニックコットン」という文字を見た時に受け取れるものが変わってきます。自分でやってみるとありがたみも値段が上がる理由もわかりますよね。
鈴木:本当にそうですね。僕が自然栽培の修行をしようと思ったのも、慣行農法(現代の日本では一般的な、農薬と化学肥料を使う農法)をやっている人に、「お前、農業をやったことはあるのか?」と聞かれたからなんです。それまでずっと、農薬なんてとんでもないと言っていたのですが、実際に農業をやってみたら本当に大変でした。草取りは一番暑い時期にやりますから、どんどん生えてくる草を炎天下の中で抜き続けなければいけない。ご高齢の方ならできないですよね。除草剤を使おうと思うのもいたしかたない。
だからこそ、八百屋になった今でも、僕たちは自分たちの農園を持っているんです。それで商売をしていこうとは思いませんが、自分たちも育てることで農家さんへのリスペクトの気持ちが強くなります。ミコト屋の野菜の値段に関しては、そこにかかる手間や時間、想いなど、全部ひっくるめて含めて適正な価値をつけたいと思っています。安すぎるものは、きっと誰かにしわ寄せがいっているんだと思うんです。
鎌田:良いものは高いと言ってしまうと、お金がある人だけが考えればいいという話になってしまいますけれど、そうではないんですよね。他のものが安すぎて、環境負荷や人のコストを価格にきちんと反映していないとも言えます。本当の値段って何だろうと、みんなが考えないといけないですよね。
八木:やってみてわかることは多いですよね。ミコト屋さんではお店を始めて1年ですが、この先やってみたいと思っていることは何かありますか?
鈴木:農家さんから野菜が入った段ボールが大量に送られてくるのに、自分たちは再生紙とはいえ、新しい段ボールを買って詰め直してお客さんに送ってるんです。農家さんの段ボールは大きいものばかりだから、宅配用の小さい段ボールとはサイズが合わないんです。でも、まだ使える段ボールを毎週大量にリサイクルセンターに持っていく一方で新しい段ボールを買い続けるのはおかしいなと思うんですよ。リサイズする作業が必要になるのでスタッフが大変になってしまうけれど、何かを再生することの楽しさとかも共有できたら素敵だなと思います。
ここ数年で、お店や宅配でもOPP袋の使用をやめて、プラスチックフリーへと転換したのですが、野菜の保存性という点ではプラスッチック袋はやはり優秀ですので、それを使わない梱包に抵抗のあるお客さんもいました。それでも、自分がおかしいなと思うことは変えたり、新しい方法を試したりし続けたいですね。
鎌田:ミコト屋さんの進化に戸惑う人がいたとしても、その進化に共感する人もたくさんいらっしゃるはずですよね。これからのミコト屋さんのさらなる挑戦が楽しみです。今日は少しずつ変化を重ねてこられたミコト屋さんの、今の時点での思いを聞かせていただけて、とてもうれしかったです。どうもありがとうございました。
2007年 ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしの豊かさに惹かれ、農のフィールドへ。
2008年 千葉の自然栽培農家である高橋博氏、寺井三郎氏に師事し畑仕事を学び、2009年 Brown’sFieldの田んぼと畑スタッフとして一年間自給的な暮らしを経験。2010年 高校の同級生、山代徹と共に旅する八百屋「青果ミコト屋」を立ち上げる。
Instagram: arisa_kamada