INTERVIEW
2023.06.20UP
価値観をカラフルに。廃棄予定食材を染料にするFOOD TEXTILE谷村佳宏さん流働き方

 「FOOD TEXTILE(フードテキスタイル)」は、廃棄予定食材を布や糸の染料として再活用するプロジェクト。コンバースの環境配慮シリーズ「イーシーラボ(converse e.c.lab)」に採用され、環境を意識するファッション好きの人たちの間で愛用されています。
 そんなFOOD TEXITEはORGABITS(ORGABITS)と同様、豊島株式会社の社員が手掛けています。プロジェクトリーダーの谷村佳宏に、立ち上げの経緯や苦労したこと、時代の変化、今後やっていきたいことをじっくりと聞きました。聞き手はORGABITSアンバサダーの鎌田安里紗さんと、ORGABITSディレクターの八木修介です。

天然染色の難しさを乗り越え、世界で褒められる色合いに

鎌田安里紗さん(ORGABITSアンバサダー/以下、鎌田):コンバースとFOOD TEXTILEがコラボをなさったシューズ、すごくかわいいですよね。周りでも履いている人がけっこういるんです。FOOD TEXTILEについてお話を聞くのを楽しみにしていました。布や糸を廃棄予定だった野菜や果物で染めるプロジェクトなんですよね?

谷村佳宏(FOOD TEXITEプロジェクトリーダー/以下、谷村):そうです。食品関連企業さんが生産する工程でやむを得なく廃棄してしまう食品残渣を買い取って天然染料を抽出し、少しだけ化学染料を使って染色しています。それでできた生地や糸や製品を販売することで、食品関連企業さんとファッションブランドさんを繋ぐプロジェクトです。

鎌田:私の母は天然染色文化について教えていた時期があって、小さな頃は庭で生地を染めさせてもらって遊んでいました。藍染が盛んな徳島出身なので、庭で藍も育てて生葉のまま染めたり、野山から草木を取ってきて煮出して染めたり。草木の染めは、金属に反応させるとわっと色が変わるから魔法のようでおもしろくて、それでずっと染め物に興味があったんです。ただ、天然染色は色が安定しなかったり色の変化もあったりするので、量産型のものづくりとは相性が良くないイメージでした。なので、豊島さんのような大きな会社さんがこのようなプロジェクトを始められたことは驚きでした。染色には試行錯誤されたのではないでしょうか。

八木修介(ORGABITSディレクター/以下、八木):FOOD TEXITEの染め方は特許を取った技術なんですよね。

谷村:そうなんです。天然染色のことを20年ぐらいずっと突き詰めて研究している会社さんがあって、一緒に開発しています。草木染めはどうしても色落ちしてしまうんですが、かわいい色が気に入って買った服が色落ちしたら悲しくなりますよね。そこで、化学染料を10%未満使用して天然染料をベースに染色する、国内外で特許を取得した方法で染めています。それまで商社の社員としては、染色というと「依頼した色と納品されたものの色が違います」などと話すくらいしか意識していなかったんですが、染色って奥深いなあと思います。

鎌田:食品そのものの色から想像する色とは違う、予想外の色が出るそうですね。

谷村:「そう出るの?」と驚く色が出たりします。トマトの色が赤ではなく黄色になったり、赤カブは青になったり。pH(ペーハー)を調整することで、1つの食材からさまざまな色展開ができることもわかりました。理科の実験で、リトマス紙にアルカリ性の水溶液をつけると青になるけれど、その水溶液に酸性を足すことで色が赤っぽくなる実験をやりましたよね。あんなイメージで、色を変えられるんです。

八木:ビューティフルピープルさんの水色のバッグは赤カブで染めたんですか。

谷村:そうなんですよ。食品でブルーってなかなかないんです。

鎌田:色ありきで食品を探しているわけではなく、食品残渣から色を作って、それを製品化していくのだから難しいですよね。でも本当にきれいな色。

谷村:2月にイタリアとフランスの展示会に出展したのですが、「New Color!」と言われて好評でした。ヨーロッパにはこういった食品残渣から染める取り組みはないそうで、サステナブルの素材として目新しい、使ってみたいと言われました。

鎌田:染められるのは綿だけですか?

谷村:ウールや合成繊維でもできるようになりました。「綿だけでこの色だけ」となるとなかなか使っていただきにくいでしょうけれど、いろんな素材や色を展開できるようになった結果、多くの企業さんが興味を持ってくれています。

きっかけは勉強会で出会った食品関連企業さんの社員の食料廃棄物問題

鎌田:食品残渣から染めるという発想自体がユニークですが、どんなきっかけで始まったプロジェクトなんでしょうか。

谷村:さまざまな産業を知りたくて参加した勉強会でとある食品関連企業のCSRの方と出会って、廃棄するものが多くて困っていると聞いたんです。当時、食品ロスは今ほど話題にはなっていませんでしたが、調べると日本の食品ロスの問題は深刻だと気づきました。もともと豊島には新規事業開発用の予算があることを知っていたので、食品残渣を使った何かができればおもしろそうだと思ったのです。

鎌田:その企業さんでは何が廃棄されていたんですか?

谷村:レタスやキャベツ、紫キャベツが余るとおっしゃっていました。

鎌田:豊島さんの事業として食品残渣を染料に使う場合、残渣が安定的に必要になりそうですし、量もたくさん必要ですよね。となると大きな企業と一緒にプロジェクトを進めたいのではないかと思いますが、大きな企業さんだと、今度は何を廃棄しているかを明らかにしたくないところも多くて難しそうです。素材集めはどのようになさったのでしょうか。

谷村:たしかにそういった困難もあって、最初は紹介で広げていきました。おもしろかったのはその企業さんが、競合のはずの他社さんをご紹介くださったことです。「こういった新しい取り組みは、みんなでやらないと」という発想だそうで、すてきだなと思いました。その後、アサヒ飲料さんなどを紹介していただいて。そのあとはこちらから企業さんにお声がけして広げていき、今ではこちらからはアプローチしていないのですが、食品関連企業さんからご連絡をいただくようになりました。

鎌田:染めた糸や布を利用するアパレル企業さんを広げる方も難しそうですが、コンバースさんは何がきっかけだったんですか?

谷村:営業が候補に挙げてくれたので、コンバースさんにはこちらから連絡してみたんです。そうしたら、ちょうどe.c.lab(イーシーラボ)のラインを立ち上げ検討中で「ちょうど生地を探していました」とおっしゃってくれました。

鎌田:完璧なタイミングだったんですね!

谷村:そうなんです。しっかりとした個性があるブランドさんなので、そのブランドの個性にフードテキスタイルの色合いを足す発想になったのが良かったと思っています。ブランドさんに寄り添う感じですね。今年はアシックスさんにも生地を採用いただくことになったんですよ。

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