INTERVIEW
2023.03.17UP
好きを長く続けるために、完璧を最初から目指さない。ビーガン対応のクッキー屋さんovgo Bakerの考え方

 ラフォーレ原宿店、軽井沢店、京都店など全国6か所で、ポップでかわいいクッキー屋さんを手掛けるovgo Baker。濃厚で食べ応えのあるクッキーやずっしりしたマフィンなど、満足感のあるアメリカンスイーツを販売するこのお店、実は100%植物性でヴィーガン対応の食材のみを使用してスイーツを作っています。
 みんなで”ちょっと(bits)ずつ”地球環境や生産者に貢献しようという想いから始まったORGABITS(ORGABITS)の情報発信サイト「BITS MAGAZINE」では、「ちょっといいこと」を実践し続けている方々にインタビューを行っています。今回は店舗オープン前からその味のファンだというORGABITSアンバサダーの鎌田安里紗さんと、ORGABITSディレクターの八木修介が、代表の溝渕由樹さんにovgoを始めた経緯と今後挑戦していきたいことを聞きました。

毎日ビーガンじゃなくてもいい。プラントベースを取り入れるメリット

鎌田安里紗さん(ORGABITSアンバサダー/以下、鎌田):初めてovgoさんのクッキーを食べたのはまだ店舗がオープンする前、2020年の1月でしたよね。とってもおいしくて、今まで食べたビーガンスイーツと印象が違いすぎて、人に伝えるのに「あれ?本当にビーガンだったっけ?」って不安になるほど。でも、実際100%ビーガンなんですよね。

溝渕由樹さん(株式会社ovgo代表/以下、溝渕):はい、100%プラントベースです。動物由来の原材料を配合せず、植物由来の原材料を使用した、アメリカンヴィーガンベイクショップです。2020年の1月に青山ファーマーズマーケットに出店したことからovgoは正式に始動したので、きっとその頃ですよね。

鎌田:それまでは、ビーガンスイーツと聞くと、ナチュラルでクリーン、だけどちょっとストイックで素朴な味というイメージがありました。でもovgoさんのクッキーやマフィンはポップでカジュアルで親しみやすく、本当においしい。今日もラフォーレ原宿のカフェの中で取材をさせてもらっていますが、ビーガンだと気づかずに「かわいいカフェだから」と利用しているお客さんが多いのではないかと予想します。プラントベースにしているのはなぜですか?

溝渕:普通のクッキーやマフィンはバターや卵を使っていますよね。畜産業、特に牛を育てることは環境負荷が高いと言われているんです。そこには2つの理由があります。1つはメタンガスの問題。牛は草を消化するのにメタンガスのゲップをたくさん出すのですが、今は牛は地球に15億頭以上飼育されていて、メタンガスは温室効果ガスの一つなので、問題になっています。もう1つは畜産に関する土地利用の問題。牛を育てるためにCO2を吸収する森を切り開いて、飼料用穀物を育てていますが、畜産に使う耕地面積は地球の1/4とも言われています。その土地を飼料用穀物ではなく小麦や大豆など人が直接食べるものを植えれば、カロリーベースで多くの人が養えるんです。プラントベースの方が、環境や社会に優しい選択肢なんですよね。

鎌田:動物福祉の観点や、宗教、アレルギーなどの理由でビーガンを選択する人の話は耳にする機会が増えているかもしれません。でも、食べ方によって環境への負荷が違うという観点は、まだ意外と知られていないですよね。一切食べないという選択肢だけではなく、回数を減らすだけも意味があるという事実をもっと知ってほしいですね。

溝渕:プラントベースは日本だと健康面でのメリットで説明することが多いですよね。ovgoの商品は植物由来なのでコレステロール値が非常に低いということは事実としてあるのですが、健康面のメリットを語るのだけだとベクトルが自分にしか向かっていなくてもったいないと感じます。自分にも良くて、環境や社会にも良いという選択肢が広がるといいなと思います。

八木修介(ORGABITSディレクター/以下、八木):おいしいプラントベースのクッキーという選択肢だと、手をのばしやすいですよね。ovgoさんという名前も、Organic,vegan,gluten-free as options、(選択肢としてのオーガニック、ビーガン、グルテンフリー)の頭文字から取られていているんですよね。

好きなことと必要なことを結び付けたら、長く続けられる

八木:でも、そもそもどうしてクッキー屋さんを開くことにしたんですか?

溝渕:もともとアメリカンスイーツやカフェが好きで年に一度NYでカフェ巡りをしていました。それとは別に大学時代にロンドンに留学をしていて、それはサッカーチームのアーセナルが見たいという動機だったんですが(笑)、イギリスって開発学が進んでいるんですよね。オックスファムやセーブ・ザ・チルドレン、スリフトショップなどのNGOの活動も盛んです。ロンドンで住んでいた地域が、ポッシュなエリアのすぐ隣に炊き出しがでるような、貧富の差が見えやすいところだったのもあって、社会の格差や開発援助、社会課題の解決に興味を持ちました。それで帰国後にはNGOでインターンをしたのですが、次第にNGOとして資金協力を募るよりも、自分達でお金を作って必要だと思うアクションをとる方がいいと考えるようになりました。それでビジネスを学びながら、途上国支援もできる可能性を考えて総合商社に入ったんですが、法務部に配属になったんです。私は契約書を読むのが苦手で(笑)。仕事にクリエイティビティを感じられなくて、クッキーを夜な夜な作っては、アメリカ人の同僚に「アメリカンスイーツとして、本場の味になってる?」なんて言いながら配っていました。

八木:会社員の時からクッキーを作っていたんですね。

溝渕:そうなんです。そのうちに、自分が好きなこと、できることで社会の課題を解決したほうが、長く続けられるなと思うようになりました。食に関することが好きだったので、食べ物で社会につながる何かをやりたいと思い始め、まずは修行をしようと思ってDEAN&DELUCAに転職を決めました。入社前に食べ物で気になるところには全部行っておこうと、アメリカや南米をぐるぐる回って、アルゼンチンのクッキー教室とか、ブラジルの農家、タコス教室などに行ったのですが、その時に、プラントベースの価値に気づいたんです。

鎌田:何があったんでしょう。

溝渕:NYには年に1度行ってカフェ巡りをしていたんですが、その2019年の春の旅のときに1年前とは比べられないほどプラントベースの商品が増えていたんです。それまでは「ビーガンのお店」「そうではないお店」と分かれていたのに、その時点では普通のカフェの、普通のクッキーの横に、ビーガンやグルテンフリーのクッキーが置かれていて。こうやって自然に選べるのっていいなと思ったんですよね。同じくらいのタイミングで、米インポッシブルフーズ社やビヨンド・ミート社の代替肉のことも知って、畜産による環境負荷の問題にも興味を持つようになっていました。それまでビーガンは動物愛護や健康上の問題での選択肢というイメージだったけれど、プラントベースの食品だったら社会課題も解決できるし、更に少しの工夫を加えればビーガンやアレルギーなどを抱える人にも食べてもらえるので、プラントベースに関して何かやりたいと思いました。

八木:その後、DEAN&DELUCAに入社したのですか?

溝渕:そうなんです。帰国後に小学校時代の同級生2人とプロジェクトとしてovgoを始めつつ、DEAN&DELUCAに入社して、そこで3年くらい修行をして、プロジェクトを育てようと思っていました。

八木:ovgoさんが青山ファーマーズマーケットで販売し始めたのは2020年1月でしたよね。修行期間が短くなったのには、何か理由があるのですか?

溝渕:六本木店で勤務をしていたんですが、プレゼントにできるようなビーガンの商品がないかとよくお客さんに聞かれていたんです。六本木近辺には外国人のお客さんが多いですし、DEAN&DELUCAにはありそうだと思われたんでしょうね。でも実際にはお勧めできるようなものがなくて。だったら自分達で作ってみようと思ってovgoでビーガン対応のプラントベースのクッキーを作り始め、イベントとEC店舗で販売を始めたんです。

八木:最初の実店舗として小伝馬店ができたのが2021年6月だと聞いています。今は小伝馬町店、ラフォーレ原宿店、軽井沢店、京都店、西神田店、福岡店と6店舗も展開していますよね。すごい勢いですね。お店の場所はどうやって決まったのでしょうか。

溝渕:お声がけをいただいたり、紹介してもらったりしているうちに決まっていったんです。京都店に関しては、仲の良い卸先のお店の近くに場所を見つけたから決めました。京都の人は環境に関心が高い人が多いようで、店舗を持つ前からEC店舗でたくさんの人が買ってくださっていたし、1年半、2ヶ月に1度京都でポップアップショップをやっていたのでお店があればいいなと思っていたんですよね。
卵やバターを使わず、お砂糖もビーガンにこだわるなど工夫した結果、食べられる人が増えたからか、芸能人が興味を持ってくれたり、ファッションブランドのノベルティとして使ってもらったりして、認知してもらえるようになりました。時代にも合っていたし、運がよかったですよね。

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