INTERVIEW
2023.03.17UP
好きを長く続けるために、完璧を最初から目指さない。ビーガン対応のクッキー屋さんovgo Bakerの考え方

間口を広げるためのビーガン対応。けれど最初から完璧は求めない

鎌田:「お砂糖もビーガンに」とおっしゃいましたが、お砂糖は植物由来ですよね?

溝渕:私も2019年にアメリカに行った時にお砂糖に「ビーガン」とわざわざ書いてあって驚いたのですが、ビーガンではないお砂糖というのが存在するんです。国産のお砂糖は甜菜(ビーツ)から作られるてんさい糖と、さとうきびから作られるきび糖があって、そのどちらからも白いグラニュー糖が生成できます。てんさい糖由来のものはすべてビーガンと言えるのですが、きび糖由来の白砂糖は生成過程で骨炭という、牛の骨を炭化させた炭を使っていることがあるんです。その過程を経たものはビーガンとは言えません。海外だとビーガンかどうかがお砂糖に明記されていることも多いのですが、日本ではメーカーさんに問い合わせて確認することが必要になります。

鎌田:動物福祉の観点、アレルギーの観点からビーガンを選択している人にとっては、大事な観点ですよね。

溝渕:そうなんです。環境保全という観点だけ考えるなら、プラントベースだけでもいいのですが、材料を選択するプロセスで配慮をしておけば、いろんな人にovgoのクッキーを食べてもらえるので、そこはこだわりを持ってやっています。

鎌田:インクルーシブな発想ですね。でも材料を厳選すれば、価格も上がってしまいますよね。それは何か工夫をしているのでしょうか?

溝渕:その点でovgoがいったん手放しているのは、「オーガニック認証へのこだわり」です。今私たちが使っている小麦は福岡産の、自然栽培で無農薬で育てられたものですが、生産者さんはオーガニック認証を取っていません。ovgoの商品は加工品なので、オーガニック認証を取ろうとすると材料の9割以上を認証のあるものにしなければならないんです。でも認証って取ろうとすると手間もお金もかかるんですよね。お取引のある生産者さんに認証を取ってもらうのも大変だし、材料を全部認証を取ったものにすると最終価格が高価になってしまいます。私たちは100%プラントベースの食品を食べる人、食べる回数を増やしたいと思っているので、少なくとも今はオーガニック認証を取ることは脇に置いて、自分達の基準で①自然栽培かオーガニックで国産のもの、それが難しければ②オーガニックか国産か、どちらかという判断基準で選んでいます。それでもチェーンのコーヒーショップで売られているようなクッキーが200円台のところに、300円台にはなってしまうのですが、そのくらいならビーガンだったり、お店のデザインなどだったりと、お店を好きになってもらう工夫のところで頑張れるのではないかって。

八木:ORGABITSが、オーガニックコットン100%を使うのではなく、10%でもいいから使ってもらって、全体のオーガニックコットンの使用量を上げたいと思っているのと似た発想だなと感じました。

溝渕:同じですよね。100%完璧な理想を追求してovgoを1年しか続けられないよりも、理想の30%の状況でもいいから10年以上続けていきたいと思っています。

B Corp認証取得やライフサイクルアセスメント(LCA)の計算も

鎌田:オーガニック認証は今のところ考えていないということでしたが、Bcorp(Bコープ)という社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証は、取得されたんですよね。Bコープはどんなところがいいと思って取得されたんですか?

溝渕:多くの認証が、環境だけ、オーガニックだけ、バイオだけ、と特化して審査を行う中、Bコープはオンラインで公開されているセルフテストと審査を受け、「ガバナンス」「従業員」「コミュニティ」「環境」「顧客」の5つのカテゴリーで総合的に評価されるのが特徴です。それがいいなと思って取得したいと思いました。店舗オープン前からテストの回答、提出をして、そこから1年ほど審査の順番待ちをして、先日ようやく取れました。

八木:おめでとうございます。Bコープ認証はパタゴニアなどが取得していて、取りたい企業も増えていますし、アパレルブランドのCFCLも取っていますね。ovgoは日本で16社目の取得なんですよね!

溝渕:2年くらいかかったので、取得できてうれしいです。Bコープ取得もうれしかったのですが、先日3年越しにやりたかったことができたんですよ!商品のライフサイクルアセスメント(LCA)ができるようになったんです。LCAは調達、生産、販売だけでなく、廃棄、リサイクルまで対象として環境負荷度合いを定量的に算出する手法なんですが、これによって国産か輸入オーガニックのどちらかを選ぶ時の判断基準ができました。もちろん国産でオーガニックがベストですが、セカンドベストが輸入オーガニックか国産か、今まではわからなかったんです。詳しい人に話を聞いても「最後は、気持ちだ」「どちらを大事にしたいか、だ」と言われてしまって(笑)。だからこれまではおいしさで選んでいたのですが、LCAで二酸化炭素排出量を定量化できたら良いと思っていたんです。

鎌田:それはすごいことですね。LCAに関してはAllbirds(オールバーズ)さんがカーボンフットプリント(CO2換算数値・温室効果ガス)をすべての商品に表示して話題になりましたよね。ovgoさんの商品にも、カロリー表示のようにフットプリントを出せるようになったということですね。実際、国産とオーガニックでは、どちらが環境負荷は少ないのですか?

溝渕:そもそもプラントベースという時点で、一般的な商品に比べると環境負荷は1/5程度になります。なので、国産と輸入オーガニックの差はとても小さいのですが、国産紅茶・国産豆乳を使った紅茶のマフィンと、オーガニックだけど輸入のココアと輸入のココナツミルクを使ったマフィンを使ったところ、輸入のオーガニックのもののほうが環境負荷は少ないとわかりました。フードマイレージよりも農薬の環境負荷が高いとする経産省のCO2排出量のマトリックスを使っているので、計算式の綾とも言えますが、いったんの数値が見えたのはよかったと思っています。

鎌田:高校などでファッションの授業をすると、どのブランドで買えばいいのかわからないと聞かれます。個々の洋服の生産課程での環境負荷は消費者の目には見えないことも多いですし、悩ましいですよね。自分の大事なお金は納得できるところに使いたいと思っても、生産過程の透明性が高くないと選べません。それは食べ物でも同じです。LCAやBコープ認証などで生産過程の透明性を増してくれると、消費者は自分の価値観に合ったものを選びやすくなりますね。

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