INTERVIEW
2023.06.20UP
価値観をカラフルに。廃棄予定食材を染料にするFOOD TEXTILE谷村佳宏さん流働き方

時代がビジョンに追いつくまでのしのぎ方

鎌田:八木さんは社内でFOOD TEXTILEのことをずっと見ていらっしゃったわけですが、どんな印象を持っていますか?

八木:僕が豊島に入社した2015年にFOOD TEXTILEが立ち上がったんです。説明会で話を聞いて、おもしろいなと思っていました。ただ、当時は社会全体が、まだこれほど環境について意識していませんでしたし、事業として売り上げが立つような状況ではなかった印象です。それがここ数年、急成長したなと感じています。ORGABITSやTRUECOTTON等、豊島の他のプロジェクトも同じ状況ですね。

鎌田:会社が志やビジョンを持って差別化としてやっていたところが、時代が変わって求められるようになったということなのでしょうね。

八木:そうだと思います。ただ、やはり立ち上げ期は大変だっただろうなと思います。どの会社でも、会社で働いていたら仕事の時間に対して給与が発生しているので、仕事で価値を出さなければいけないですよね。FOOD TEXTILEでは売り上げが立っていない状態で、しかも社会的にも理解が得にくいなか、谷村さんには逆風が強かったのではないかなと予想しています。

谷村:もう、ものすごい逆風で(笑)。「Tシャツは普通は1900円で買えるのに、なんでキャベツで染めたら4900円も払わなきゃいけないの」とバイヤーさんにも言われました。社内では長らく兼務で、通常のOEM製品を販売する、売り上げを追い求めるタイプの仕事をしていたんです。売り上げをそこで作りながら、FOOD TEXTILEをやっていました。もう、がむしゃらにやっていた感じです。でも、きっとアパレル各社の皆さんも無理をして売れるものを売ろうと頑張って、きっと一通りやりつくしたのでしょうね。消費者の心を掴むために、FOOD TEXTILEを使ってみたいとお声が掛かるようになったんだと思います。

八木:時代が変わってきたんですね。いい時代になりましたね。

鎌田:先ほど、FOOD TEXTILEでイタリアやフランスの展示会に出品なさったと聞きました。ヨーロッパは日本よりもファッション産業の環境負荷を低減するための方法についての議論が活発な印象ですが、これまでは素材の議論が多かったところに、最近は染色や加工の議論が盛んになってきているように思います。染色や加工の選択肢を増やしているのかもしれませんね。

谷村:そうかもしれません。染料を買えないのだろうかとよく聞かれました。生産拠点を近くしたいという思いがあるようです。「これはすごい発想だ、日本人の発想だ」と言われたのはおもしろかったですね。

八木:「もったいない」の精神ってことですかね。

谷村:そう。「そこには目をつけていなかった」と言われました。

鎌田:日本は、染色手法が多様で、技術も高いと言われていますが、だからこそ気が付けたり、技術的に実現することができたのかもしれませんね。展示会ではさまざまな方とお話しされたと思いますが、他にサステナブルな衣服に関して何か気づいたことはありますか?

谷村:ヨーロッパでは第三者機関の認証を持っていて環境に配慮しているところでなければ取引しないのが当然のようになっていたのが印象的でした。認証の確認が最初の関門です。でも日本のメーカーさんでオーガニックやリサイクルについて聞かれることはまだ少ないですね。認証を見せてほしいとおっしゃるところも、その内容を把握されていないことが多いです。ヨーロッパだとどうやって調達しているかなど、細かく聞かれます。そこが大きな違いだと思います。

八木:認証が必須となると仕入れ先の選択肢が減って生産することが難しくなりそうですが、それによって環境や人権に悪いものを大量に作らないようにしているのでしょうか。

谷村:そういう意味合いもあるのかもしれませんね。

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