INTERVIEW
2023.06.20UP
価値観をカラフルに。廃棄予定食材を染料にするFOOD TEXTILE谷村佳宏さん流働き方

数字ばかりを追い求める社会への疑い

鎌田:先ほど、FOOD TEXTILEの仕事は逆風の中で始まったとお聞きしましたが、それでもやり抜けたのにはどんな思いがあったからなのでしょうか。

谷村:FOOD TEXTILEは勉強会で食品関連企業さんから食品残渣の話を聞いて始まったとお伝えしましたが、その勉強会に出ていたのは、ちょうど長男が生まれた頃でした。子供にお父さんの仕事はこれなんだよと胸を張って語れるような仕事をしたいと思ったからなのです。そしてこのFOOD TEXTILEをやるにあたって出会った、先述の天然染色の研究に取り組んでいる会社の方が、僕の社会人人生を変えてくれました。染色は、服ができる工程で、物として形が変わらないために、一番目立たない仕事です。この会社の方々は、そういった染色の仕事のイメージをもっとすてきなものに変えよう、日本の染色業をもっと元気にしようと、行動しているんです。数字だけではない仕事があるなと感じました。それをやりながら同時並行で数字も追い求めていたので、ギャップを自分の中で処理するのは大変でしたけれど(笑)。

鎌田:そうだったんですね。実際に染色の過程を見に行って、どんなことを感じましたか?

谷村:国内の染色工場さんの体力がどんどん落ちてきているのを実感しました。まだ始めてから8年弱ですけれど、それでもはっきりわかります。先日も、お願いしている染色工場が一社、廃業を決めたそうなんです。国内の染色業を元気にすることは重要だなと思いますよね。

鎌田:廃業なさるところは、注文がないからなんでしょうか。それとも原料や光熱費が上がりすぎて価格が見合わなくなってしまうからですか?

谷村:理由はさまざまです。やはり大口の発注者に海外と価格で比較されて苦しくなっているところもありますが、経営者が高齢で後継者がいなかったり、働き手が減ったりしているのも大きいです。縫製工場には技能実習生が働きに来てくれて助かっている面もあるのですが、染色工場にはなかなか来てくれないようです。

鎌田:私も染色工場さんに伺うことがありますが、たしかにそうですね。なぜなんでしょう。縫製だったら縫い方を見て覚えられるけれど、染色だと言語的なバリアがあるからでしょうか。

八木:特にFOOD TEXTILEの仕事を受けてくれるようなところは技術的に難しいことをやっていそうですしね。

鎌田:技能実習生が来てくれるところは辛うじて持ち堪えているという現状自体が大きな問題ですね。生産の現場に適切な工賃が支払われていないということですし、本来技能を習得しに日本に来てくださる国外からの実習生の方が、安い労働力として捉えられてしまうことも変えていかなくてはならないと思います。

価格だけでなく、カラフルな価値観で洋服が選べる社会に

鎌田:先ほど、染色工場さんには価格の問題がダイレクトに響いてしまうのかもとお話ししましたが、価格の問題って本当に深刻ですよね。数ヶ月前に染色工場さんにおじゃました時にも、光熱費が上がりすぎて価格が見合わないのだけれど、値上げをしたら発注してもらえなくなるから廃業するしかないと言われたんです。「みんなで価格をあげていきましょうよ」と思ったんですが、やはり商品の価格を上げるのって難しいものなんでしょうか。

谷村:そこなんですよね。発注元、製品を売るいちばん強い立場の人が、「染色工程の価格を上げるのは無理です」と当然のように思ってしまうんです。FOOD TEXTILEは通常の染色よりも高価なので価格は課題です。でも課題とは言わずに、価値を見せていきたいですね。

鎌田:本当は発注元の人が、FOOD TEXTILEのように世界観を作ってくれたり、ストーリーを語ってくれたりして価格を上げて、作る過程で仕事をしてくれる人に還元できるようになればいいと思うんですけれどね。繊維工場さんや染色工場さんが苦しくならないために、消費者ができることって、どんなことがあると思いますか?

谷村:服を買う時に、どういう作られ方をしているかを、もっと見てほしいですよね。食品だと生産地を見るのに、服はなぜ見ないのかなって。もしかしたら中国製がほとんどだからかもしれないですけれど。

八木:オーガニックの食事とオーガニックコットンってだいぶ人々の意識が違うんですよね。食事だと「残留農薬がなくて体にいい」というイメージがありますが、洋服の場合は自分に直接的なメリットがなくて、働く人や土地へのメリットだから、関心が向きにくいのかなとも思います。

鎌田:食品と違って、服は作る過程が想像しにくいからのもあるかもしれません。タグを見ても、そんなにたくさんの情報はないから、なかなか意識しづらいですよね。でもまずは生産地を意識するところから始めて、生産過程を踏まえて選ぶ人が増えれば変わるかもしれないですね。

八木:情報量が少ないし、自分に直接的なメリットが少ないからこそ、FOOD TEXTILEのように、作り手は消費者が感じられる価値に変えて伝えていかなければいけないんでしょうね。FOOD TEXTILEはブランドさんに寄り添う感じでやっていきたいというお話がありましたけれど、FOOD TEXTILE自体がブランドとしてもっと認知されてもいいのかもしれない。

谷村:そうですね。ブランドってすごい力がありますもんね。エルメスが好きな人がエルメスのバッグを持ったら、その人はエルメスというオーラをまとってその日をすてきに過ごせる。ブランドってそんな力があると思うので、作り手としてはブランドとして価値がずっと宿るようなモノづくりを目指すのがいいのかもしれません。

鎌田:好きなブランドの服を着たら、それによって頑張れることもありますもんね。

谷村:そう考えると、やはりFOOD TEXTILEが環境にいいから使うというよりも、すてきな色だということで手にとってほしいんですよね。良いと思って手にとって、よく見たらたまたま食品残渣から染めていたとわかる、というような入り方であってほしい。

鎌田:そのほうがファンになってもらえるかもしれませんね。買い手としては、自分が購入する時に見るべきポイントをもっと知りたい、という声も耳にします。先ほど、調達時の日本のメーカーさんとヨーロッパのメーカーさんの質問の粒度の違いについてもお話がありましたが、メーカーさんも消費者も、谷村さんや八木さん、豊島の皆さんがお持ちの服づくりの知識を知ることができれば、もっと生産過程を考えて洋服を選ぶ人が増えそうです。

谷村:たしかにそうですね。価格の点では消費者の目は鋭すぎるくらい養われているから、次はもうちょっと違うところに鋭さが向いてもいいですよね。

鎌田:賢い消費者像が「安くていいものを買う人」という感じになっていますもんね。

八木:もう少し多様な価値観を持つ、いろんなカラーの「賢い消費者像」があってもいいですよね。

鎌田:ぜひ、多様な価値観でものを選ぶためのオンラインセミナーなどをやってください。私、質問役をやりますよ。

八木:いいですね。ブランドさんの会員登録をした消費者さん向けのイベントにしてもいいかもしれません。方法を考えていきたいですね。

鎌田:谷村さん、今日はすてきなお話、どうもありがとうございました。

GUEST
谷村 佳宏/Yoshihiro Tanimura豊島株式会社 営業企画室 チーフ
1984年生まれ。大阪府出身。2007年繊維専門商社の豊島株式会社入社。
人事部で新卒採用担当を経て、現在メンズカジュアルを主に扱う営業マンとして過ごす傍ら、2015年食品企業とアパレル企業を結ぶ自社独自のプロジェクトブランド「FOODTEXTILE」を立ち上げる。
昨年から営業企画室へ異動して、国内サーキュラーエコノミープロジェクト「wameguri」など循環素材を世の中に普及すべく奔走中。
INTERVIEWER
鎌田 安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
Instagram: arisa_kamada
INTERVIEWER
八木修介
豊島株式会社営業企画室所属、ORGABITSディレクター。1992年生まれ、神奈川県川崎市出身。慶應義塾大学文学部を卒業後2015年に豊島に入社。人事部にて2年間新卒採用担当として採用面接や企業説明会に従事。その後営業部署に異動し、ワーキングアパレル領域の営業を担当。生産管理で中国やASEANの奥地に入り込み、ピーク時には年間100日ほど海外出張。その後2019年から現部署にてオーガニックコットンを中心としたサステナブル素材を担当。物心ついた頃からの趣味はサッカー。
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