INTERVIEW
2022.06.30UP
ちょっとずつポップに。旅する八百屋「青果ミコト屋」がアイスを売りながら伝えたいこと

コミュニケーション、顔が見えることの大切さ

八木:ミコト屋さんは、お客さんとの距離が非常に近いですね。

鈴木:micotoya houseと名前をつけたのは、友達の家に遊びにいくような感覚で店に来てほしいと思ったからです。初めて来てくれた人でも、常連さんでも、誰にでも話しかけて、楽しんでもらいたいなと思っているんです。

鎌田:お客さん、店員さんと立場をはっきり分けてしまうとお互いにその立場を演じてしまって不自然な関係性になるのかもしれませんね。私自身も、スーパーやコンビニのレジであまりに機械的にやりとりが進んでいくのに違和感を覚えて、意図的に「こんにちは!」「ありがとうございます!」と話しかけて、機械的な関係を崩そうとしてみています。もっと普通に人と人として関わりたいですよね。

鈴木:そうですよね。うちのスタッフにも、とにかくお客さんに声をかけてねと伝えています。アクセスがいいわけではない店までわざわざ来てくれているくらいなんだから、何回でも声をかけてって。

お店を持って変わったことに、近所の方々との関係の変化もあります。街で知らない子供にいきなり声をかけるのは、今の時代だとなかなか難しい。でも、昔はいましたよね、近所に話しかけてくるおじさん。この近くに学校があって子供たちがお店の前をよく通るのですが、今は八百屋のおじさんで顔を知られているから大丈夫かなと思って、話しかけています。地元の小学生が職場体験に来てくれたこともあるし、先日は中学生が修学旅行のお土産を持ってきてくれたんですよ!

八木:それはうれしいですね! 今こうやってお話を聞いていても、お店の前を通る人の多くが、中に向かって手を振っていくので驚いています。

鎌田:ミコト屋さんは取引をする農家さんとも、お店のお客さんとも、地域の方ともコミュニケーションをしっかりとっていらっしゃるんですね。

鈴木:距離が遠くて関係性が薄いことが、問題を引き起こすと思っているんですよ。自然栽培の修行をさせてもらっていたとき、直販だけではなくて市場にも野菜を卸していました。トラックの荷台に野菜をいっぱい詰めて持っていき、値段をつけてもらって卸すんです。でも、荷台の一番手前の箱しか見てくれない。どれだけ手間をかけて育てても、パッと見ただけで、値付けされてしまうんです。だったら一番手前に見栄えのいいものを集めるようにすればいいかと思ってやってしまったんですよ。そしたら師匠に気づかれて怒られました。「そんなことをしていたら、お前もやっていることは同じだぞ」って。

人ってそういうものですよね。顔が見えなかったり、関係性が遠かったりすると、ずるしたりごまかしたりしてしまいます。だからミコト屋では、農家さんのところに行くし、お客さんとも地域の方ともしっかりとコミュニケーションが取りたいんです。

八木:繋がれる距離、顔が見える距離にいることはとても大事ですよね。繊維業界だと、各工程が非常に細分化しているので、生産者の顔が見えにくいんです。綿花栽培、ジンニング(綿繰り)、紡績、織布、染色、縫製という工程を経て、ようやく店頭で洋服の販売ができるわけですが、消費者の方からすると直前の縫製工程だって国名しかわからないケースが大半で、最初の綿花栽培の部分なんて、普通は見られません。それが今、繊維業界の問題を生んでいると思います。

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