INTERVIEW
2022.06.30UP
ちょっとずつポップに。旅する八百屋「青果ミコト屋」がアイスを売りながら伝えたいこと

ちょっとずつ、楽しく伝えるのが広げていくためには必要

八木修介(ORGABITSディレクター/以下、肩書き・敬称略):ミコト屋さんの「ちょっとずつ、楽しく意識してもらう」という姿勢はORGABITSと共通しているなと思います。オーガビッツは2005年から始まったのですが、当時はオーガニックコットンを使うなら100%じゃないと意味がないという考え方が主流だったんです。今よりもずっとストイックなイメージでした。でも、オーガニックコットンが100%使われている服を1人が着るよりも、10%使われている服を100人が着たほうがインパクトは大きくなります。だから10%使うことを広げていこうと始まったのがORGABITSなんです。

鈴木:昨年2月から一年、畑や工場を旅しながらORGABITSの動画「和綿がタオルになるまで」を一緒に作らせてもらいましたが、ORGABITSの発想には非常に共感しています。僕はもともと農家を目指していて、自然栽培で野菜を作りたかったんです。有機、化学を問わず、肥料を使うことすらダメだと思っていました。その当時は街も裸足で歩いて、髪も編み込んでヒッピーみたいなスタイルでした。それだと本当にこういった発想が好きな人とはすごく話が合うんです。一方で、話せば話すほど引いていく人もいました。

八木:そこまでストイックにできないよ、と思われてしまうんですよね。

鈴木:そうなんです。ミコト屋を始めたばかりの時はまだその名残があって、扱う野菜も自然栽培で採れたものにしたいと思っていましたし、仕入れた野菜のすばらしさを熱く伝えていたのですが、一部の人としか分かり合えませんでした。もっとカジュアルに伝えていかなければ、いつまでもマイノリティのまま、特別な人のための仕事をすることになるなと気づきました。

地域性、さまざまなものがあることのおもしろさ

鎌田:今はどんな基準で扱う野菜を決めているのでしょうか。

鈴木:明確な基準はないです。強いて言えば、「畑や天気の状況、農家さんの感覚、そこに寄り添って育てられたものであること」ですかね。ここはやはり言葉では伝えきれない感覚的な判断基準があるんですよね。農法で線引きはしていなくて、信頼ができるかどうか、愛着が持てるかどうかで判断しています。そのために、取引を始める前には必ず畑に行きます。もちろん僕たちのことも農家さんにはきちんと知っていてもらいたいと思っているので、野菜のことだけでなく、プライベートのこともじっくり話して、信頼関係を結んだところから入荷しているんです。だからいろんな野菜がありますよ。自然栽培で育てられた野菜とか、在来種の種から育てられた野菜とか。

鎌田:在来種の種というのは、その土地の風土に合わせて適応していった野菜の種のことですよね。人為的につくられた一代限りの、でも均質な野菜がよく育つ「F1種」が今は一般的ですが、種に関しても意識を向けてらっしゃるのですね。

鈴木:そうなんです。在来種は土地ごとに違う個性を持っています。地域ごとに違いがあるのはおもしろいですよね。八百屋のロス対策にアイスと並んで漬物を検討していた話をしましたが、漬物ってその土地の風土が反映されていておもしろいんですよ。

岐阜県の白山の麓にある石徹白(いとしろ)では、「石徹白かぶら」という在来種の蕪を作り続けています。石徹白の多くの人が、それを使って保存食の漬物を作るのですが、種は自分の畑で取って、自然栽培のようなやり方で毎年作り続けているんです。石徹白の人も他の野菜についてはF1種の苗や種を買ってきて育てることがほとんどですが、この石徹白かぶらだけは違うんですよ。それは、このかぶら漬けが自家用で、流通させるために蕪の形や大きさを揃える必要がなかったからでしょう。そして何より、やっぱりこの石徹白かぶらでなくては、おいしいかぶら漬けにならないからなんだと思います。

また長野の木曽地方には塩を使わないで乳酸菌発酵させる「すんき」という漬物があります。海がない地域だからの、知恵ですよね。寒い地域の方が冬の間の食べ物に困りますから、保存食の種類も豊富だったりして、漬物には地域性が表れているんですよ。こういった地域性の残るものはおもしろいですよね。ただ、漬物には匂いの問題があるので、今はまだ踏みとどまっているんですけれどね。

鎌田:服も、今ではどこでも同じようなものを着ていますが、もともとは土地で取れるものを使って、気候風土や生活様式に合わせて作っていたんですよね。以前にバングラデシュの服作りの工房にお邪魔した時に、近くから取れる木で版を作り、柄を印刷する伝統的なプリントをやっていたんです。モンゴルでは寒い気候に合わせて手のあたりがふわっと広がっている服を見せてもらいました。そういった服作りに出会うとわくわくします。グローバルな経済システム、ものづくりのシステムができて、土地を超えて素材が行き来して、ものが作れるようになったのはすばらしいことですが、ものや情報の行き来が限られていたときの方が洋服は個性的だったのかもしれませんね。

鈴木:さまざまなものがあるのは、豊かなことですよね。

八木:ミコト屋さんでは、在来種の野菜を広める取り組みもなさっていますね。

鈴木:「種と旅と」ですね。風土に根差した野菜の流通を担う独立系の八百屋をつなげる取り組みで、ミコト屋も参加しています。F1種よりも在来種がエライと思っているわけではなく、どちらもあった方が多様でいいと思うんですよ。F1種は良いところを掛け合わせて作られているので、流通に乗せやすい。でも毎年購入する必要があります。在来種は種を取り続けられるけれど、収穫時期がバラけたり、形が不揃いだったりと“暴れやすい“から、流通にはのらないんです。でも家庭菜園には在来種はとても良いと思いますよ。その土地の気候風土に合っていますし、取れる時期がバラバラでも、形が不揃いでも家で食べる分には困りません。逆にF1種で一気に取れてしまうと家庭では困りますしね。役割の違いがあると考えてもいいのではないでしょうか。それも伝えたいことの一つです。

八木:コットンでも同じことが言えます。F1種の種を使うと、虫害や寒さに強かったり白度が高いコットンができたりします。でも、毎年種を買う必要があるため、海外の小規模農家さんが経済的に困窮するという事態が起きることもあります。それでも需要があるから、農家さんはF1種のコットンを作るんですよね。逆にF1種ではない、オーガニックコットンの需要がもっと増えれば、作る農家さんも増えるのではないかなと思います。ミコト屋さんと同じ発想ですね。

鎌田:今は在来種の野菜やオーガニックコットンの需要が少なすぎますが、それは良さや価値を知られていないからという理由も大きいですよね。だからこそ、ミコト屋さんやORGABITSの活動に大きな意味があるなと感じます。

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