INTERVIEW
2022.06.30UP
ちょっとずつポップに。旅する八百屋「青果ミコト屋」がアイスを売りながら伝えたいこと

 みんなで “ちょっと(bits)ずつ” 地球環境や生産者に貢献しようという想いから始まったORGABITS(ORGABITS)。そこから始まった「BITS MAGAZINE」では「ちょっといいこと」を実践し続けている方々へのインタビューを行っています。

 今回のゲストは、2010年から「旅する八百屋」として、古いベンツのキャンピングカーで全国の農家さんを巡って直接仕入れた野菜を宅配したり、アートや音楽イベントなどで野菜を販売したりしてきた「青果ミコト屋」さん。2021年4月からは実店舗とアイスクリーム専門店〈KIKI NATURAL ICECREAM〉をオープンしました。アイスの材料はゴボウや春菊、それからなんと牛スジやパンの耳まで! 青果ミコト屋立ち上げから12年目の今、どんな思いで仕事をしていらっしゃるのか、代表の鈴木鉄平さんに聞きました。聞き手はORGABITSアンバサダーの鎌田安里紗さんと、ORGABITSディレクターの八木修介です。

※取材はマスクを着用し、最小限の参加者のみで行い、写真撮影時のみマスクを外しています。

旅する八百屋がアイスクリーム屋さんを始めたワケ

鎌田安里紗さん(ORGABITSアンバサダー/以下、肩書き・敬称略):藤の花、酒粕、蜂蜜、グリンピース、ミルク……、いろんなアイスがありますね! 「青果ミコト屋」さんは八百屋さんですが、なぜアイスクリーム屋さんもやることになさったんでしょうか。

鈴木鉄平さん(青果ミコト屋 代表/以下、肩書き・敬称略):僕たちは2010年から、旅する八百屋として、市場を介さない八百屋を続けています。市場で仕入れない代わりに、農家さんとコミュニケーションをがっつりとって、どんな人がどんな思いで野菜を作っているのかも含めて知り、自分達が好きになった農家さんから野菜を仕入れて、宅配で定期的に送ったり、飲食店に卸したり、アートイベントなどに出展したりして販売してきました。10年ほどそれを続けて、やっぱり拠点となる実店舗がほしいと、昨年2月にこのmicotoya house(ミコトヤハウス)を作ったんです。

個人宅配や卸販売は注文ありきなので、事前に必要量がわかりますし、イベントなら売り切れでもいいので、今までは在庫を持たずに、ロス(食品廃棄)を出さずに仕事ができました。でも、実店舗で八百屋をやるためには、やはりある程度の量の野菜を常にお店に並べておく必要がありますよね。そうすると絶対にロスが出てしまう。ロスを出すのは嫌でした。農家さんがせっかく育てた野菜を無駄にしたくなかったんです。何かしなければと思って、デリでお惣菜を作って売るとか、漬物にするとか、いろいろな方法を考えました。それで残ったのがアイスです。

鎌田:たしかにアイスは野菜よりも日持ちしますもんね。

鈴木:アイスは製造時から冷凍なので賞味期限の表示義務もないですし、急速冷凍をすれば劣化しにくいんです。野菜をアイスにするとおいしく食べられる期限を伸ばすことができるのがいいなと思いました。

加えて、農家さんのところにお邪魔すると、割れたトマトや摘果したミカン、間引いたニンジンなどをたくさん捨てているのを目にするんです。日本は出荷規格が厳しくて、形が悪い、色が悪い、重さが足りないなどといった理由で廃棄される「規格外」の野菜の量が、年間150万トンとも200万トンとも言われているんですよ。これってすごくもったいないことだなと思って。とはいえ農家さんだって今まで捨てていたものをわざわざ出荷するなら、手間がかかります。ある程度お金にならないといけない。それを考えても、アイスはちょうどよかったんです。

鎌田:アイスクリームの原料はそういった規格外の野菜やお店で売れ残ったものなんですね。

鈴木:ほとんどがそうです。あとはクラフトビール作りで麦汁を絞った後の粕をビール屋さんから引き取ったり、バーガー屋さんからパティを作る時に出た牛すじを引き取ったり、パン屋さんからサンドイッチを作る時に出たパンの耳を引き取ったりして、アイスを作っています。

鎌田:牛すじアイス!? すごいですね。鈴木さんが自然栽培(農薬や肥料を使わない農法)の農家さんのところで修行をしたのに農家ではなく八百屋さんをやろうと思ったのも、野菜を無駄にしたくなかったからだそうですね。せっかく自然栽培やオーガニックで丹精込めて作った野菜も、形が悪いものや不揃いなものは弾かれてしまって捨てられてしまう。それは消費者がきれいなものを求めるためだから、消費者に良さを伝えて届けるところからやろうと八百屋さんを始められたんですよね。ロスをしないことを、ずっと一貫して考えていらっしゃるのですね。

鈴木:そうなんです。しかも、アイスってこういう話をするにも便利なんですよ。野菜を通じて規格外の野菜のことやロスのこと、思いを持った農家さんのことなどを話そうとすると、やっぱりちょっと説教臭くなってしまいます。そういう話が好きな人にしか伝わらない。けれど、ゴボウや牛すじのアイスをおもしろがって食べてもらって「実は……」と話すなら、伝えやすいですよね。そうやってちょっとずつ、楽しく意識してもらうのがいいと思うんです。アイスはクールでスイートな解決方法なんですよ!

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