INTERVIEW
2021.01.15UP
オーガニックコットンの認知率が7割を超えた今、ORGABITSが目指すもの

ORGABITSの役割の変化

鎌田:15年の間に、ファッション業界も大きく変わりました。オーガニックコットンもたくさんのブランドが使うようになっています。ORGABITSは今後どのように変わっていくのでしょうか。

溝口:ORGABITSの役割は完全に変わっていきます。もちろん今までのような支援も続けますが、今後の役割は①原料のトレーサビリティに向き合うこと、②社会に良いインパクトをもたらしたいと行動する若い人を支援することの2つです。

①原料のトレーサビリティに関してはまず、2019年4月に行われたファッションレボリューションウィークからTRUECOTTONという、「農場と紡績工場の特定」ができる追跡可能なオーガニックコットンの販売を始めました。これは豊島にとっては大事件です。

鎌田:大事件! それはどうしてですか。

溝口:特定農場と契約すると、豊作でも不作でもその農家さんから綿花を買うことになります。こちらの都合の良い商売ができなくなって、生産者の人生に責任を負う必要がでてきます。この玄人好みの話が、消費者の皆様に伝わるまでにはひょっとすると3年くらいかかるかもしれませんが、それを今からやるのは繊維の専門商社としてリスクの高いことなんですよ。

鎌田:一般的には原料生産を行う農家さんは「外部」として、リスクを自社で抱え込まないようにしますもんね。たくさん採れたところからできるだけ安く買うのが、今までのビジネスでは正解とされてきたように思います。けれど、本来は原料を育てる農家さんがいないとものづくりができない。さらに、農家さんは天候など、コントロールできない要素に対峙してくれているのだから、そのリスクを押しつけず、一緒に取り組んでいくのはとても重要なことですよね。TRUECOTTONは資本主義の重要な課題にも向き合う大きなチャレンジですね!

溝口:そうなんですよ。綿花以外にもいろいろなことにチャレンジしていきたいと思っています。
そして②社会に良いインパクトをもたらしたいと行動する若い人を支援することに関しては、自分たちが上の世代の方々に引っ張り上げてもらったように、若い人を後押しするような場をORGABITSで準備したいと思っています。

鎌田:具体的にはどういうものなのですか?

小出:Roomsというクリエイターさん、ブランドさん、志あるものづくりをしている人たちが出展する展示会があるのですが、今年は「ORGABITS CAFÉエリア」として場所を借り、4つの次世代エシカルブランドが無料で出展できるようにサポートをしたんですよ。年1回ですが、これは今後も続けていきたいと思います。

溝口:Roomsだけでなく、若い人々を後押しして街行く人が「ああ、あれってORGABITSが仕掛けたんだ」とわかるような取り組みもしていきたいですね。この若者の支援は小出さんが担当、僕が原料のトレーサビリティを担当しています。

鎌田:Roomsもとてもすてきでしたよね。今後、どんな出展があるのか楽しみです。

溝口さんの豊島内での役割の変化

鎌田:溝口さんは今、ORGABITSに加えて会社として次世代への投資をなさっているそうですね。会社としても、新しい、すばらしい技術を持ってる人たちに投資をしていくということなんですね。なぜこういった取り組みをなさるのでしょうか。

溝口:これは豊島株式会社としての方針と重なります。豊島は少なくともこの30年、日本で多くの洋服に関わる仕事をして来ました。でも今、アパレル生産の業界は転換期を迎えていますし、今後人口減少が起こってくると、豊島の社員、お仕事をさせていただいている取引先の方々は、30年後に今と同じレベルで仕事をし続けられるかどうかはわからないと、考えているんです。

でも、洋服を作るのに培ってきた力、加えて取引先の方々の売る力で、もっと世の中に貢献できることはあるはずです。そこで、ファッション業界にいる僕達と組むことで、世の中をより良くしてくれる仲間を探しているんです。

鎌田:では、投資先はファッション業界とは限らないということでしょうか。

溝口:はい、ファッション業界に限りません。昨年出資したスタートアップの一社は店舗の省人化の技術を持っているアメリカ・サンディエゴの会社です。ここはAmazon Goのように、レジの支払いをせずに自動的に決済してくれるシステムを開発しています。

鎌田:投資先は海外も含めて探しているんですね。でもなぜ豊島が、その企業に投資を決めたんでしょうか。

溝口:きっと将来的にはものを買う場所が変わると思うからです。今は、ショッピングセンターや駅ビルに行くと洋服屋さんがあります。けれど将来的には、店舗の場所・売り方が変わるかもしれないですよね。ひょっとしたら廃線になった駅跡地が、雑貨と洋服と日用品のお店になって、こういった技術によって人手を使わずに店舗を運営し、人々はそこでモノを買うという購買行動が生まれるかもしれません。集合住宅や大学やスタジアムなどにも、ひょいっとその手の店舗ができるかもしれない。そういう可能性があると思うんですよね。

鎌田:たしかにそうですね! 他にはどんな投資先があるのでしょう。ファッション関連のものはありますか?

溝口:強引に「着る」という意味で考えると、現在はスマートウェアを開発するスタートアップ5社に投資しています。例えば今僕が来ているのはスマートセンサーのシャツです。これは既存の業界のくくりでいえば電気業界ですが、ファッションにも関係していますよね。

小出:IoTですもんね!

鎌田:そのシャツはどんなことができるのですか?

溝口:着ると体調が正確にわかります。たとえば僕は今、緊張してるからストレスの数値が高いです。また暑熱リスクがあるかどうかも知らせてくれます。他にもスマートパジャマで睡眠の質を測ったり、完全に位置情報を把握できる服、人工筋肉を使って長時間の立ち仕事をアシストできるようなウェアもあります。こういった技術が、たとえばまちづくりだったり、医療現場だったりに活用されるとおもしろいですよね。

鎌田:身に纏うもので、いろいろなことができるのですね! さまざまなことをなさっていますが、溝口さんは豊島の仕事を通して、どんなことをしていきたいと考えていらっしゃいますか?

溝口:根本にあるのは、ビジネスと社会貢献をちゃんと両立させたいという思いです。そのために、小出さんと僕が一緒に動くことで、豊島の社員や取引先の方々が、笑顔になれることを、最重視して考えています。

鎌田:今後のORGABITSの取り組み、豊島さんがさらに楽しみになりました。本日はありがとうございました!

Text: フェリックス清香
Photograph: Martineye(Instagram: dennoooch)

GUEST
溝口量久(みぞぐち・かずひさ)豊島株式会社 執行役員 営業企画室長
ORGABITS発起人。1972年名古屋市生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、1996年豊島に入社。繊維原料部門の営業、インドネシア駐在を経て、2005年にオーガニックコットン普及プロジェクトのORGABITSを立ち上げるなど、サステナブル推進の核を担う。
サステナブルキッチン「ROSY」を運営する株式会社オーガニッククルー取締役。
一般社団法人エシカル協会理事。
2017年グロービス経営大学院卒。
2017年にCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げてスタートアップ企業への投資を担当。
INTERVIEWER
鎌田 安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
Instagram: arisa_kamada
INTERVIEWER
小出 大二朗
豊島株式会社営業企画室所属、ORGABITSプロデューサー。1966年1月神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1989年立教大学経済学部卒業後、株式会社三陽商会に入社。営業、企画マーチャンダイザーを経験後、企画責任者を経て、英国ライセンスブランドのメンズ総責任者を担当。その後、米国ライセンスブランドの事業責任者、マーケティング部門の責任者とあらゆる職務を経験。2017年豊島株式会社入社後、出資会社の副社長を経て現職。
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