INTERVIEW
2020.10.23UP
「違和感」を大切に活動を続けるヘラルボニーが、変えていきたいものとは?

さまざまな変化を少しずつ起こしていく

鎌田:先ほど、松田さんは「プロデューサーとして福祉施設に関われる人の少なさや、世間の偏見によって真価が見てもらえないけれど、その壁を取っ払って異彩に光を当てたい」とおっしゃっていました。多くの人に作品を見てもらうことで、少しずつ変化を起こそうとなさっているんですね。

佐々木:そうなんです。同時に僕たちは、「ファッションは消費するのが当たり前だ」という常識も、覆したいと思っています。だからすべてのプロダクト名の最初に「アートハンカチ」、「アートマスク」などと、「アート」という言葉をつけているんです。単なるハンカチやマスクだったら消費されてしまうかもしれない。でも、商品ではなくアートを身につけていると考えてもらえれば、恒久的に使う大事なものになるだろうと考えたんです。

鎌田:すばらしい発想ですね。日本では物の平均価格が下がっているので、今まで長く使われていたものも消費財のように扱われる傾向があります。でも、「アート」として提供すれば、買う人のそのものの捉え方が変わります。そのちょっとの違いが、積み重なると大きな結果になるだろうと思うんですよね。

このBits Magazineの副題には「ちょっといいことしてるヒト」という副題がついていますが、何事も「”ちょっと”から始めること」が大事だと感じています。いわゆる「いいこと」をしようと思うと、全部完璧にやらないといけないと思ってしまいがちです。でもまずは本当に小さな、自分のできることから、少しずつやっていくのが大事ですよね。

佐々木:そうですね。僕がORGABITSさんを知ったのも、その「”ちょっと”から始める」という発想があったからなんです。僕は現場が好きで日本や海外の工場を見に行くんですが、生地の原料であるコットンの生産には農薬を大量に使います。その結果、生産者さんに健康被害があったり、土地が汚染されたりしてしまっています。オーガニックコットンは着る人への重要性よりも、作る人の健康や地球のために重要なんです。だから農薬を使わないオーガニックコットンが必要ですが、農薬を使わないと手間がかかるため、コットンは高くなってしまいます。

そこにORGABITSさんが「100%オーガニックコットンではなくてもいい。ちょっと使うだけで、世界がよりよく変わる」と発信していたんです。この発想の転換は発明だなと思って、ご一緒したのが最初です。

鎌田:そうだったのですね! 本当に「”ちょっと”から始めること」が大事ですよね。ORGABITSさん含め、これまで社会が変わる取り組みをしてきた人は、自分が感じた違和感や、こうした方が良いのではないかという素朴な感覚を大事に、自分のできるちょっとしたアクションを試し続けてきた人だと思います。その結果、社会が変容したり、新しい風が吹いたりするのだなと感じています。

また、今世間で「いいことをしてる」と言われている人たちは、単に自分の違和感に向き合ってちょっとずつ行動してきただけで、特に「いいことしてる」とも思っていない人が多いように思います。佐々木さんも違和感に向き合って少しずつ行動をなさってきたのかなと感じました。

私自身も、エシカル、オーガニック等の言葉を使って情報を発信していると、「いいことをしていますね」と言われることがあります。そう評価してくださることを否定したいわけではないのですが、「いいこと」をしたいからやっているわけではないんだよなあ、とも思うんですよね。自分が気持ちがよくて好きなこと、違和感のないことを目指しているだけなんです。

松田:そうですね。評価されることはうれしいことですし、僕たちは手法が新しいので、よけいに評価していただけているのですが、僕たちも、「いいことしたい!」と思ってヘラルボニーをやっているわけではないです。どちらかというと、自分の部屋を片付けているような感覚ですね。部屋って、めちゃくちゃに散らかっていたら気持ち悪いじゃないですか。自分がその方が気持ちがいいからやっているという感覚です。

ダイバーシティが深層心理に入ってきた

鎌田:ヘラルボニーと出会うことで福祉や障害に対するイメージが変わる人は多いと思うのですが、お二人自身には何か変化はありましたか?

佐々木:小さな変化が起こりました。街中、電車の中、自分の身の回りの様々な環境で、障害のある人がいることに気づくようになったんです。昨日も視覚障害がある人が迷っているようだったので、声をかけてちょっと手助けしたんです。今までだっていろいろな方がいたはずなのに、気づかなかったり、無意識に見ないようにしたりしていたのだと思います。今は、ダイバーシティが深層心理に入ってきた感じです。周りの環境をみる目が立体的になった結果、いろんなところに行くときに、「車椅子でこのスペースで通れるのかな」などと意識するようにもなりました。

鎌田:「ダイバーシティが深層心理に入ってきた」、すてきですね。すんなりとそうなれない人はたくさんいると思うんです。自分と違う人を受け入れたいと思いながらも、違いに気づくとやっぱりびっくりしてしまう、というか。

「あの人は私と違う」と思った後で「あ、でも、特別視しちゃいけない」みたいな変な空回りをしてしまったり。障害に限らず、食のスタイルや宗教など、様々な場面でそういったことがあるように思います。その空回りが、物事をややこしくしているなと思うこともあるんです。

松田さんも、以前に「世間では知的障がいを持つ人に対して、『変わってる』や『普通じゃない』と感じることすらタブー視されているような空気がある」とおしゃっていましたよね。障害を含め、何か違いのある人に対して、「私たちと同じだ」と思おうとするのも、なんだか変な気もします。

松田:そうですね。その空回りは、僕も感じています。僕らは、健常者も障害のある人もみんなみんな同じだという考えるのではなく、自閉症があるからこそ描ける世界があるし、ダウン症のようなチャーミングさがあるからできる仕事があるといった具合に、「明確に違うからこそできることがある」と言い切ることによって、障害のイメージを変えていきたいんです。「私たちと同じだ」と”思おうとする”のではなく、違いを楽しんで、どういうふうに違うのかを知ろうとするような関係が生まれればいいなと思っています。

鎌田:そうですね。違いを前提に、それを楽しめればいいですよね。でも日本では特に「違い」を前提に人と接することが苦手な人は多いと思うんです。佐々木さんはそこをどう乗り越えたのでしょうか。

佐々木:「違う」と思って身構えてしまうのは、接し足りないからではないでしょうか。僕は9年前からDown’s Town Projectでダウン症の方々のアートに触れてきた上で、ヘラルボニーで徐々にいろんな方に接するようになったんです。接する機会が多ければ、身構えなくなると思いますよ。

鎌田:慣れが大事なのかもしれませんね。松田さんはヘラルボニーを始めてから、何か変わったことはありますか?

松田:そうですね。僕たちは最初は自社ブランドに「MUKU」という名前を使っていました。「MUKU」は、アール・ブリュットという言葉から来ています。アール・ブリュット(生の、そのままの、芸術)は、知的障害のある方や何かの民族の方、死刑囚の方など、芸術的な教養を一切受けていない人たちによるアートを指し、純真無垢な、根源的な欲求から生まれるとされています。僕も最初は作家さんの創作表現を見ていて、作家さんたちが本当に心の底から無垢に好きな作品を描いているんだろうな、と思ったんです。

でも、1年ぐらい活動を続けて見て、ちょっと違うかなと思い始めました。お金に繋がることには無頓着な人が多いのですが、「見ろ、俺の作品、すげーだろ!」等と施設の職員などに言って、他者評価を気にする作家もけっこういることに気づいたからです。褒められたい、あの人にすごいと思われたい、という気持ちを抱く人もいるんだなと感じました。

それ自体はすごくいいことだなと思うんです。今まで褒められることとは無縁で生きていたかもしれないけれど、創作に出会うことで社会と接点ができ、たくさんの人から褒められて、自信がついたということなので。その人の人生を考えると、すごく素敵なことですよね。ただそうなると、「純真無垢の、『MUKU』です」と胸を張っていうのは変かなと思いました。それでHERALBONYというブランド名にしたんです。

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