INTERVIEW
2020.10.23UP
「違和感」を大切に活動を続けるヘラルボニーが、変えていきたいものとは?

AI、人工知能が発達していく時代に、意識すべきは「異彩」

松田:福祉施設は、できないことをできるようにする、マイナスをゼロにしていく考え方があると感じます。支援という意味では必要なことだと思いますが、僕はすでにできていること、芽が出るかもしれないと思ったことをさらに伸ばしていくことも重要だと思うんです。

鎌田:できないことをできるようにする、という考え方は、特に日本の教育の中では一般的ですよね。でも本来、人はみんな違うのだから、それぞれの得意なところを伸ばせばいいですよね。

松田:そうなんです。今後、いろんな仕事がAIや人工知能などに取って代えられていきますよね。そういう時代に求められるのは、すべてを平均的にできることではなくて、その人にしかできない特別な才能だと思うのです。作家さんの絵は、僕なんて絶対に真似できない。ただ、障害のある作家さんの才能は、世間の偏見によって真価を見てもらえていません。ダイヤモンドが曇っているようなものです。その曇りをとっぱらって、「異彩」をさまざまな形で社会に送り届けたいんです。

鎌田:たしかに商品にプリントされた作品からは、すばらしい才能を感じます。商品のタグには英字表記のHERALBONYと、カタカナのヘラルボニーの2種類ありますね。どういう違いなのでしょうか。

松田:英字表記のHERALBONYは自社ブランドで、将来的にはマリメッコのようなライフスタイルブランドに成長させていきたいと思っています。マリメッコと聞くと、あの花柄が頭に浮かぶように、HERALBONYと聞いたときに柄が想起されるようになってほしいので、柄数を絞っています。最高品質で、デザインとして優れた物、ちゃんとブランディングして出していこうと思っているのが英字表記のHERALBONYです。

一方、カタカナのヘラルボニーでは、2000点以上のアートのアーカイブを保有していて、いろんなブランドさんにライセンス契約を結んで活用いただいたり、街を彩るアートとして活かしていきたいと考えているんです。こちらのプロダクトも、クリエイションのしっかりした、素材も生産背景などがしっかりしているものを使っています。あまり打ち出していないのですが、たとえばバッグの持ち手などに使う革は、食用肉の副産物の革で、生産背景がしっかりしているものを使っているんですよ。

鎌田:「ヘラルボニー」という社名、ブランド名はお兄さんが何度も繰り返し書いていた言葉を活かしていると聞きました。

松田:そうなんです。僕は一卵性の双子で、会社は双子の兄と立ち上げましたが、その上に自閉症で知的障害のある兄がいます。その兄貴が自由帳に繰り返し書いていた謎の言葉をそのまま会社名にしました。

英字のHERALBONYのほうはロゴを馬のマークにしているのですが、それも実は兄貴が関係しています。今までは「ヘラルボニーって何?」と兄貴に聞くと「わかんない!」と言っていたのに、1年ぐらい前から「うま!」っていうようになったからなんです。来年「ねこ!」って言い出したら、猫に変えようかと……冗談ですが。

障害のある人のアート作品に、価値を見出した者同士の出会い

鎌田:松田さんに関しては、福祉事務所でのアート作品の取り扱われ方への疑問や、知的障害のあるお兄様との関係でヘラルボニーを始めたというのは原体験になっていることがわかるのですが、佐々木さんはどんな経緯でヘラルボニーに参画することになったのですか。

佐々木:僕は20年ほどファッションデザイナーをやっています。ずっとアートが好きで、著名なアーティストの作品を洋服に使ってきました。そんななか、このBITS MAGAZINEの運営母体のORGABITSのお声がけで、アトリエ・エレマン・プレザンさんという、ダウン症の方々のためのプライベートアトリエを知ったんです。

小出:ORGABITSを立ち上げた溝口から、佐々木さんのお話は以前から聞いていました。9年ほど前だったそうですね。

佐々木:そうなんです。そこでダウン症の方々の描いた作品を見たらすばらしくて。洋服のデザインに使ってプロダクトを作ったら、多くの方に喜ばれて売れました。プロダクトが売れるのはうれしいことですが、それよりもうれしかったのは、作家さん側に図案料のお支払いとともに、作品を使って作った服をお届けしたら、親御さんが非常に喜んでくれたことです。仕事ができないと思っていた娘・息子に仕事ができた、作品が洋服になって届いて泣くほど嬉しかった、と喜びの手紙をもらったんです。

僕は毎月洋服を大量に作ってお客様に買ってもらい、毎月何億円という売り上げを作るファッションの世界に身を置いて来ました。そこではシーズンごとに洋服の売れ残りがセールで叩き売られて、それでも売れなければ焼却処分になり、洋服のデザイン自体も消費されていきます。どんな洋服でも、原料を作る人、糸を紡ぐ人、生地を織る人、服を縫う人と、非常に多くの人が関わってできているのに、この消費の仕方はおかしいのではないか、と違和感を抱いていました。

アトリエ・エレマン・プレザンさんとの活動では、その消費の世界とはまったく違うものを感じました。「感情」がある仕事で、心地がいいなと思って続けているなかでヘラルボニーのことを知ったんです。ちょうど僕も松田兄弟と同じ岩手県出身で、同じ活動をして同じ志を持っているので、二人に連絡して僕のアトリエに来てもらいい、話を聞いて手伝いを申し出ました。

松田:よく覚えています。ヘラルボニーの創業は2018年7月ですが、会社ができて4ヶ月目のことでした。中目黒のオフィスを出た後に双子の兄と「これはチャンスだ!」と興奮して言い合いました。その日のうちに顧問をお願いしたいとメールして、快諾してもらったんです。

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