INTERVIEW
2023.01.10UP
いろんな人を巻き込み、繋げていく。クリニクラウン流活動の続け方

気持ちを動かし、変え、旅立ちを見送ることもあるクリニクラウンたち

八木:クマちゃんさんは実際にクリニクラウンとして現場に行かれて、どう感じましたか?

クマちゃん:こどもたちが「!!」と目を輝かせる瞬間があって、改めてこの活動は大事だなと思いました。こどもたちにとって遊びってこんなにも大切なことなんだ、と。活動でこどもたちと会うと、最初に緊張していた子が、遊びの中で自分が出せるようになってきて、別れる時にはなんとも言えない表情をするんです。短い時間でも、こどもの成長を感じられて、現場って楽しいなといつも思います。

トンちゃん:今はコロナで少し活動範囲が狭くなっていますが、コロナ前は全国48ヶ所の病院に行っていました。全国あちこちに行っているので、ときどき地方の病院からもっと大きな病院にガン治療などで転院する子に会うこともあるんです。そんな時にその子が「ああ、クリニクラウンとまた会えてラッキー!」と親御さんとともに喜んでくれて。転院になるのに喜ぶことなんて、まずないですよね。リハビリを嫌がっている子に「じゃあ、クリニクラウンと一緒に1、2、1、2って歩いてみる?」と伝えて、ハーモニカ吹きながらゆっくり歩いたりして、前向きになれるように支援することもあります。クリニクラウンに会うことで治療に前向きになれると、治療効果も出るとドクターが教えてくれました。

クマちゃん:先日、難病のこどもを支援する団体さんに呼んでいただいたら、あるお母さんに「実はクリニクラウンに病院で会ったことがあるんです」と声をかけられました。そのお母さんが「実はあの時、交通事故にあって数か月後だったのですが、事故の影響で表情を変えることができなくなっていたんです。でもクリニクラウンが来た時に、事故後、こどもが初めて笑ったんです」とおっしゃったんです。そして、クリニクラウンとの出会いからこどもが変わっていったのだ、と動画を撮って写真も大事にしてくださっていて。私たちの訪問を良い思い出にしてくださったのが伝わってきました。

トンちゃん:「証拠写真があるから!ちょっと待って!」と、10年ぐらい前の写真を見せてくれることもあるんですよ。

クマちゃん:講演会でクリニクラウンのことをお話しする機会もあるんですが、あるとき、ものすごい目力でじっと見てくる女性がいたんです。私も知っている気はするけれどだれだろうと思っていたら、公演が終わった後でこちらにやってきて、「実は会ったことがあるんです、病院で」って言うんですよ。それで私も思い出して、「○○病院でしょ?」と聞くと「そう」って。その女性が中学生の頃に、会っていたんです。で、彼女が言うんですよ。「あのときはごめんなさい」って。

鎌田:あら。何があったんですか?

クマちゃん:彼女は「クリニクラウンが来てとてもうれしかったのに、気持ちが沈んでいて、ツンケンしちゃった」って。私も、そのときは何をやっても彼女が笑わなかったからよく覚えていて。でも、そのとき最後にくすっと笑ってくれたから「もう〜、めっちゃいい笑顔やん、もっと早く笑ってよ〜」と言いながら別れたんですよ。そのときのことを、彼女が「あのとき、最後に笑顔が素敵っていってくれたのがとてもうれしかった。それから気持ちが前向きになって、笑うようになった」と言ってくれたんです。とてもうれしかったですね。自分としては「何かもっとできたんじゃないかなぁ」と思うような関わりでも、その子にとっては思い出になっていたりするんだなって。しかも、そのときの講演タイトルは「病気のこどもたちを応援するボランティア活動」というものだったんです。

鎌田:わあ、想いが引き継がれていますね。うれしいですね!

トンちゃん:活動を長く続けてきているので、最近は「クリニクラウンのその後」を聞く機会も増えました。ただ、やはり長くやっていると治る子との出会いもたくさんあるけれど、旅立つ子を送る経験もあるんですよね。もう目も見えない、身体中に管が繋がれた状態の子に「トンちゃんが来たで」と訪問したこともあります。その子とはいつも手を取りながら追いかけっこをしていたので、「こうやっていつもトンちゃんを引っ張って走ったやん、トンちゃんしんどかったわー」なんて言って手を取ったら、私の手をきゅっと握ってくれました。みんなびっくりしてしまって。その子はそれから間もなく亡くなったんですが、こどもにとって遊びの力はそれほど大きいんですよね。

私はケアリングクラウンとして大人にも訪問しますが、大人の場合、最期を迎える前は「私の人生って、これでよかったのかな」と振り返る時間になります。私たちクラウンはそれに寄り添う形になりますが、こどもにとってはやっぱり「遊び」が大事。どんなこどもにとっても、遊びのあるこども時間をプレゼントしてあげなければいけない、と思います。

八木:より良い最期をプレゼントしたいですよね……。

トンちゃん:そうなんです。ある子の看取りのときに「トンちゃん入って」と依頼されたこともあります。部屋に入ったら、もうみんな涙、涙で、泣き濡れている。だから私は、その子に言ったんです。「トンちゃん、来たで。みんなもいっぱい来てるで。だから今からな、きみとやった遊びをみんなにしてもらうから」って。

なぜ遊びをすることにしたかというと、その子が「ぼくのせいで家族が、お母さんや妹たちが我慢しなきゃいけない」「ぼくのせいでみんなが悲しい顔をするのが嫌なんだ」と繰り返し言うのを、私は聞いていたからです。だから、この子が笑って旅立つにはどうしたらいいかと考えて、みんなにその子と一緒に遊んだ皿回しの道具を配って、「はい、みなさん頑張りましょう、みんなで一緒に遊んで皿回しをして、バトンを繋げましょう」って。突然の提案にみなさん、目を白黒させて、でも手に棒をわたされると、手持ち無沙汰でもあるし、必死にバトンを繋げようと頑張りますでしょう?で、笑い声が漏れたりもして。耳は最期まで聞こえると言いますから、その笑い声はきっとその子にも届いている。クラウンはその場の空気を変え、人を繋ぐ役割があると思うんです。

鎌田:とても大事な役割ですね……。

クリニクラウンの原点と環境の変化

鎌田:トンちゃんさんはクリニクラウンを始める前に、すでにケアリングクラウンの活動をなさっていたとのことですが、なぜケアリングクラウンの活動を始めたんですか?

トンちゃん:もともとは民生委員をやっていたのですが、カウンセリングで人が心を開いてくれるまでは時間がかかるなと感じていました。ところが、ある障がい者の家族たちのパーティに行ったらクラウンがいて、みなさんがあっという間に心を開いていたんです。これは奥が深いと思って調べたら、アメリカのウィスコンシン州大学でクラウンキャンプというものをやっていて、そこでケアリングクラウンが学べるとわかったんです。49歳の時だったのですが、それから4年間学びました。

鎌田:すてき。クラウンと出会って、興味を持って挑戦なさったのですね。クマちゃんさんはどんなことがきっかけで、クリニクラウンの活動を始めようと思ったのですか?

クマちゃん:父が大きな病気をして入退院を繰り返していた時に、病院内で感染症に罹ってしまって隔離されたことがあるんです。そのときに、父が一気に元気をなくして「白い壁ばっかり見てたら気ぃ狂いそうやわ」って言ってたんです。もともととても陽気な人だったのに、人と会えなくなることでこんなに豹変してしまうんだと、ずっと心に残っていました。その頃、私は仕事の傍で劇団に所属してパントマイムなどの活動をしていたので、トンちゃんが参加したオランダ総領事館主催「クリニクラウンワークショップ&講演会」の新聞記事を母から見せられたときに、これだと思ったんです。父が私たち家族の前では気を張って、弱みを見せないようにしているのにも気づいていたので、第三者が介入することの価値も感じていましたし。

鎌田:お二人ともご自身の経験から気づきを得て、行動を起こされたのですね。お二人がクリニクラウンの活動を始めてから15年以上経っていますが、始めた頃と環境は変わってきましたか?

トンちゃん:そうですね。発足当初は病院のボランティアといっても、外の植え込みに花を植えるような活動が主流で、なかなか病棟の内には入れなかったんです。やはり、治療で抗がん剤を使うせいで免疫力が下がっているお子さんもいますし、外部の人が入ることで感染リスクが高まります。医療現場なので治療が優先だ、遊びは治ってからでいいじゃないかと考える人も多かったんです。でも、それがずいぶん変わってきました。クリニクラウンの理事長も小児がんと向き合ってきたドクターなのですが、衛生面などの教育と健康診断や抗体検査などをきちんと受けたクリニクラウンが病室に入って遊ぶ価値を認めていただけるようになってきました。

鎌田:そしてコロナ前は全国48ヶ所の病院に行かれるところまで活動が広がったのですね。今のコロナ禍ではどのような状況ですか?

クマちゃん:今年は2ヶ所の病院に訪問し、17ヶ所の病院をオンラインでつないで活動しています。クリニクラウンは33人所属していますが、その中でライフスタイルの変化などもあってコロナ禍で活動できているのは20数名です。でも、コロナ禍こそクリニクラウンの活動は必要だなと感じることもありました。というのは、コロナ禍では面会の制限があって、最初は家族ともなかなか会えなくなり、特に中高生は「もうちょっと我慢してね」「面会時間は5分だよ」などと言われてしまうような状況だったんですね。そんななかクリニクラウンが12、13歳の子と関わるときに、我慢した気持ちが抑えきれなくなって泣き出してしまう子もいたそうです。でも次第に泣いていたのを忘れて、遊びに集中できたという話も聞きました。コロナ禍であってもこどもにとって遊びというのは非常に重要だと実感しました。

鎌田:人とのコミュニケーションができることは、やはり誰にとっても重要ですよね。先ほどzoomで活動の様子を見せていただきましたが、周りの看護師さんなども巻き込んでいらっしゃるのが印象的でした。

トンちゃん:こどもに「お母さんや看護師さんも登場するで」とか言って、お母さんや看護師さんに赤い鼻をつけてやったら大喜びしますしね。やはりこどもを笑顔にするには、周りにいるお母さん、ご家族、看護師さんなどを笑顔にする必要があります。それに看護師さんやお医者さんなどは日頃は職業上の顔を見せていますが、遊びに巻き込むと先生も失敗したりして、お茶目なところや、おっちょこちょいなところなど、その人の姿が見えてきます。すると、近づきやすくなりますよね。クリニクラウンがいない時間でもコミュニケーションが豊かになります。そうやって一緒に楽しむ時間を過ごすのは非常に重要だと思うんです。

鎌田:クリニクラウンさんは、いろんな人を繋ぐ役割があるのですね。

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