INTERVIEW
2021.10.13UP
俳優・活動家TAOさんが語る、ファッションのすばらしさとそれを楽しむために必要なこと

「ABODE OF SNOW(アボード・オブ・スノウ)」の生産時のこだわりと悩み

安里紗:エメラルド・プラクティシーズでアボード・オブ・スノウの生産を日本国内でなさっていることや、ダウンはリサイクルダウンを使っていることをお話しされていましたね。

TAO:そうなんです。テンジンがまずヒマラヤを思い浮かべたときに、寒さに耐えられる服としてダウンジャケットを作りたいと言ったんです。ただ、私も彼もヴィーガニズムにそった生活をしているので、ダウンという動物性のものを使うことを良しとは思えなかった。それで調べたら、日本にGreen Down Projectさんというリサイクルダウンを手がけるところを見つけました。

生産地は、コストを下げるなら海外の方がいいとアドバイスもいただいたんですが、支払われる賃金の不当さや自分の目の届かないところで物を作ることがブランドのポリシーに合わないと思ってやめました。今は私がモデルだったことでつながりを持てた日本で生産していますが、ゆくゆくはヒマラヤ山脈の近辺の人々が正当なお給料をもらって職人として仕事をしていけるようにして、そこで生産をしていきたいと思っています。

本当に悩みながら、皆さんに教えてもらいながらやっています。例えばセーターは動物搾取が起こりやすいとウールの代わりに、ヤクというチベット近辺に生息する牛の毛を使っているんです。ヤクは換毛期になると自然に毛が落ちて、それを遊牧民たちが拾い集めて糸にするという昔ながらのやり方をしているからです。でも、そのうちにヤクが人気になったら、ヤクを集めて工場化しよう、という発想につながりますよね。そういうことに加担したくはないなとも思うのです。

限られたところから、少量をいただいて生産したいのですが、トレーサビリティが非常に難しいという悩みもあります。コロナウイルスによって移動がしにくいので、遊牧民の方がヤクをどれだけ大事にしているかを見にいけてないのも悩ましいですし。ファスナーの素材もリサイクル素材を選んだけれど3割程度のリサイクル率だったり、天然染色に移行したいと思っても「どうしても色落ちしてしまうので、返送してくだされば染め直します」と言われて現実的でないなと考えたり。悩みは尽きません。

悩みながら情報発信することがもたらすもの

安里紗:悩みは尽きないとおっしゃいましたが、その葛藤自体を紹介してくださることが、いろいろな方への学びの提供になると感じました。

天然染色に関して言えば、石油由来のものを使うよりも環境に良いとも言い切れないところがあると感じます。天然染色は水も、原材料となる植物も圧倒的な量が必要になってしまうからです。それをどう考えるかでも選択肢は分かれますよね。また天然染色は色落ちしてしまうけれど、それがおもしろいとも言えます。京都で江戸時代から続く、染屋「染司よしおか」の吉岡更紗さんにお話を伺った際、「お客様との関係は買っていただいてからがスタート」とおっしゃっていたのが印象的でした。色が落ちてきたら連絡くださいとお伝えして、ずっと関係を続けるのだそうです。お客さんとの関係についての考え方が今のビジネスとは違っておもしろいですよね。グローバルブランドだと難しいという面もありますが、いろいろな正解があるから、葛藤を伝えてくださると、別の正解に辿り着ける人もいそうです。

小出:そうですね。また、悩みを発信して疑問を投げかけると、技術進歩に励む事業者や僕らのような商社が、例えば環境負荷をかけない第三者の認証がとれた染料を作ろうとしたり、逆に新たな天然染料を見つけ出そうとしたりするかもしれません。疑問を投げかけたり、悩みを発信したりすることはそういった意味でも有効と感じました。

TAO:本当にそうですね。作り手として常に新しい技術にアンテナを貼りつつ、古き良き価値観やものづくりに敬意を持ち、発信していくことが、特にサステナブルなブランドにおいては肝心ですね。

安里紗:私自身の葛藤もお伝えしてみたいのですが、先ほどヤクをどのように大事にしているかわからないというお話をされていましたよね。私自身はヴィーガンではなくて、お肉も食べるしレザー製品も持っているのですが、動物への敬意やフェアに関わることはどういうことなのかなと、ずっと考えています。

モンゴルで遊牧民の方々と会ったときに感じたのですが、彼らは常に羊などを共同生活の仲間として大切に扱っています。とはいえ、「早く動いて」と、馬のお尻をパシパシ叩いて小屋に入れたりしますし(笑)、優しく接しているかというと、常にそういうわけではないと感じます。一方で、羊を捌いて食べるときには、血一滴も大地に落とさないように本当に美しく捌くし、全部いただくんです。そういう状況を見ると、動物に敬意を持って共生するってどういうことなんだろうかと、まだ答えが出ないんです。

TAO:私自身は自分が知っている範囲でできるだけ搾取を選ばないようにとヴィーガンとして暮らしているのですが、ヴィーガンだって100%動物や環境に負荷を与えずに生きているわけではありません。昔ながらの方法で、自分の手で動物の命をいただくことに関して私は敬意を持っていますし、完全にお肉を食べることが悪だと思っているわけでもないんです。ただ、現在の私たちの生活では肉はスーパーで血を抜かれた状態で商品として売られているんですよね。それはファクトリー・ファーミングに直結してしまうし、環境破壊にも繋がっています。そのため、選択肢としてヴィーガンもあると提唱するようなつもりでいます。

安里紗:そうですね。ヤクの毛に関して大量生産されることを促進したいわけではないとおっしゃっていましたが、私も工業式畜産や、大規模農場などの仕組みに問題があると感じます。日本は大豆を輸入に頼っていますが、日本がかつて大豆の輸入先をアメリカからブラジルに変えた結果、ブラジルの大豆の生産量が大幅に伸びてしまい、森林破壊に繋がっていたという話も聞いています。特に日本に住む私たちにとっては大豆代替品を食べれば問題解決とは言い切れないですよね。

ではグラスフェッドビーフ(牧草飼育牛肉)やラボで作られた培養肉を食べれば良いではないか、という話になりそうですが、今度はグラスフェッドビーフは全員に行き渡るほどは生産できないため、貧困層は培養肉を食べよ、となってしまいそうです。すると格差の問題にも繋がってしまうんですよね。悩ましいと感じています。

TAO:そうですね。ヴィーガニズムの発信をしているときにも、その難しさは感じます。ヴィーガニズムは菜食ですから基本的にはそんなにお金がかかる食生活ではないんです。代替肉を食べる必要だってありません。でもお肉が恋しい人のために代替肉もあるよと紹介すると、日本ではまだ代替肉が高いから、高級品を紹介しているようにとられるかもしれません。代替肉が売れるようになれば単価も下がっていくだろうと思って発信していますが、マリー・アントワネットの「パンがなければお菓子を食べれば良いじゃない」という発言に似たものとして受け止められる可能性はあるなと常に感じています。

ファッションでも、「オートクチュールはいいですよ。でもファストファッションは環境に悪いからやめましょう」と言ってしまうと、買える層が限られてしまうんですよね。散々富裕層が汚してきた地球を、それ以外の人たちに我慢させるような形で解決するのは避けたいので、悩ましいところです。

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