INTERVIEW
2021.10.13UP
俳優・活動家TAOさんが語る、ファッションのすばらしさとそれを楽しむために必要なこと

ファッション業界大きな変化とTAOさん自身の変化

安里紗:「ファッション」という言葉にはアート作品のように美しいものを集中して作り込むような世界から、ウルトラファストファッションのように誰かが熱量をこめて作ったデザインをコピーして安価に作ってたくさん売る世界まで含んでしまうんですよね。全部一緒くたに語ることの難しさを感じます。

TAO:「ファッション」は本当に大きな言葉ですよね。ファストファッションの台頭によって、私が仕事をしていたハイファッションの世界にも大きな変化がありました。ファストファッションはハイファッションのデザインをコピーすることで批判も受けましたが、巨額のお金が集まるために、いつの間にかクリエイター、フォトグラファー、モデルなどがどんどんそちらに移っていき、ハイファッションよりもファストファッションの仕事を受ける方がステータスが高いような状況になったのです。

小出:僕は三陽商会で長らくロンドンのライセンスブランドに関わっていました。本国の歴史や哲学を重んじる彼らの姿勢にとても共感していたのですが、その後このブランドはあるシーズンのコレクションで”SEE NOW,BUY NOW”という新しい生産・流通システムを発表したのです。それまでハイファッションでは、コレクションで見た服が店頭に並ぶまで半年ぐらいかかったのですが、そのブランドは、今見たものを今すぐに買えるようにしたのですね。

それができる体制を整えたのはすごいことですし、ファストファッションがコレクションで見た服をコピーして先に大量に作り、安価に売ってしまう状況の中では必要だったのかなと思います。その一方で、「待つ」という楽しみが失われ、ずいぶん商業的になったようにも思いました。スピーディな消費社会らしい、時代性を感じたことも覚えてます。。

安里紗:本当に変化が大きいですね。TAOさんは2013年にハリウッドデビューをなさっていますが、モデルから俳優への転身は、そういったファッション業界の変化が原因なのでしょうか。

TAO:いえ、2012年にたまたま映画のオーディションの話が来たのです。モデルの仕事で好きだったのは、アウトフィットを着て、プロの方にヘアメイクをしてもらって自分ではない誰かになることだったり、カメラの前で表現したりすることだったので、お芝居ではさらに踏み込んで表現できることに気づいて、自分のやりたいものはこれだったと、のめり込みました。今はファッションの仕事も少しだけ続けていますが、軸はお芝居の仕事に置いています。

安里紗:そういうきっかけだったのですね。では、Emerald Practices(以降、エメラルド・プラクティシーズ) として環境問題などをソーシャルメディアを通じて発信をし始めたのは、何がきっかけだったのでしょうか。毎回重要なエッセンスがぎゅっと30分から1時間ぐらいに詰め込まれていてありがたいコンテンツだなと思っているんです。

TAO:2年前に、お芝居の仕事がきっかけでロサンゼルスに引っ越したんです。それまで10年住んでいたNYでも少し郊外に出れば自然に触れることができたのですが、ロサンゼルスではさらに広大な自然に囲まれる暮らしができて、ああ、コンクリートジャングルではない、こういう世界があったんだなと思い出しました。

それから少しして、国連でグレタ・トゥンベリさんが怒りのスピーチをしました。その時に、私自身も子供の時に、ゴミ問題や酸性雨、温暖化などを聞くにつれて、なぜ大人達はわかっているのに行動しないんだろうと怒っていたことを思い出したんです。それなのに私はコンプレックスから夢を膨らませて自分の人生ばかりにフォーカスを当ててきてしまった。グレタさんのスピーチを聞いた時に、自分がなりたくないと思っていた大人になってしまっていたと気づきました。それで、今からでも活動したいと思ったんです。

「Emerald Practices(エメラルド・プラクティシーズ)」と「ABODE OF SNOW(アボード・オブ・スノウ)」の共通点

安里紗:エメラルド・プラクティシーズでは環境とヴィーガニズムを中心にお話しなさっていますよね。

TAO:そうなんです。ヴィーガニズムは人間ができる限り動物を搾取することなく生きるべきだという主義ですが、あらゆる搾取や差別に反対するという思想が根底にあります。私自身、差別や不平等が気になりますし、ヴィーガニズムの思想もあって人権の話題も取り上げますが、話が広がりすぎないようにしようと思っています。

安里紗:パートナーのテンジン・ワイルドさんと立ち上げられたファッション・ブランド「ABODE OF SNOW(アボード・オブ・スノウ)」でも、共同クリエイティブディレクター兼サステイナビリティ・アンバサダーという肩書きでご活躍中ですよね。チベットの伝統服からインスピレーションを得たお洋服などを展開されているそうですね。

TAO:夫のテンジンがファッション・ブランドをやりたいと言い出した時、私は環境問題にのめり込んでいたので反対したんです。エメラルド・プラクティシーズでファッションがいかに環境汚染に加担しているかを発信しながら、夫が新しくブランドを立ち上げることにジレンマがあって。でも、彼はこれをライフワークにしたいと言ったんです。チベットは、7億5000万人の暮らしを支える水源であるヒマラヤ山脈に囲まれているのですが、そこにルーツをもつ人たちを讃え、世に知らせるような活動がしたい、と。

夫はチベット人の母親とスイス人の父親の元、スイスで生まれ育ったのですが、義母は中国がチベットを侵略した時に命からがら逃げた人なんです。そういった家庭背景から彼は自分のルーツを大切にしていて、それをどうにか次世代に伝えたいと考えた時に、すでにいろいろある政治的運動ではなく、デザイン畑でファッションの仕事をしてきた彼ならではことがやりたかったんですね。その気持ちを押しつぶすわけにはいかない。けれど、やるからには正しいものづくりを心がけようと、生地選びや生産方法にこだわり、本当に売れるだけの数を作るようにしながらやっています。

安里紗:そういったブランドなのですね。以前にモンゴルで遊牧民の方々のところで刺繍の技術を見せてもらった時に、デールという民族衣装の袖がふわっと広がっているのは、寒い中で馬に乗る時に、手綱を握る手を覆って手袋のように使うためだと教わりました。バングラデシュでフェアトレードの工房にお邪魔したときには、現地で取れる木を使って版を作り、ブロックプリントをしているのを見たんです。そうやってあちこちで伝統を生かした洋服を見ると、服づくりは気候風土や、その土地で取れるもの、暮らし方などさまざまな要素が反映されたものだったんだなと改めて気付かされて、とてもおもしろいと思ったんです。

今は世界中が繋がっていて、デザインする場所と実際にお洋服を生産する場所、それを売る場所が遠く離れています。グローバルなサプライチェーンの中で物を作れることにも魅力はあるのですが、その場所ならではの知恵を生かしたものが減ってきているのはやはり寂しいと思います。そんななかで、アボード・オブ・スノウさんは良い形で昇華されていて素敵だなと感じました。

次のページ「ABODE OF SNOW(アボード・オブ・スノウ)」の生産時のこだわりと悩み

1 2 3 4

Page Top