INTERVIEW
2021.10.13UP
俳優・活動家TAOさんが語る、ファッションのすばらしさとそれを楽しむために必要なこと

みんなで “ちょっと(bits)ずつ” 地球環境や生産者に貢献しようという想いから始まったORGABITS(ORGABITS)。そこから始まった「BITS MAGAZINE」では「ちょっといいこと」を実践し続けている方々へのインタビューを行っています。
 今回のゲストは、さまざまなハイブランドでモデルとして活躍したのち、現在は主に俳優として活躍していらっしゃるTAOさん。TAOさんは、結婚相手のテンジン・ワイルドさんと環境と動物福祉に配慮したファッションブランド「ABODE OF SNOW(アボード・オブ・スノウ)」を立ち上げたり、モデルの小野リリアンさんと「Emerald Practices(エメラルド・プラクティシーズ)」という環境問題、アニマルライツなどを扱ったソーシャルメディアプラットフォームを手掛けたりと、活動家としての顔もお持ちです。そんなTAOさんに、モデルとしての暮らしのなかで感じた違和感や、洋服の買い方、今考えていることをお聞きしました。聞き手はORGABITSアンバサダーの鎌田安里紗さんと、ORGABITSプロデューサーの小出大二朗です。

モデルとして感じたファッションのすばらしさ

鎌田安里紗さん(ORGABITSアンバサダー/以下、安里紗):2013年に『ウルヴァリン: SAMURAI』にヒロイン役として抜擢されてハリウッドデビューを果たすなど、俳優として活躍中のTAOさんですが、モデルとして14歳でキャリアをスタートされ、シャネル、ラルフ・ローレン、エルメスなど様々なハイブランドで活躍なさってきましたよね。モデルになろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

TAOさん(俳優・ABODE OF SNOW 共同クリエイティブディレクター兼サステイナビリティ・アンバサダー/以下、敬称略):ファッションが好きだったからというよりも、背が高いことにコンプレックスを抱いていたので、モデルという職業に興味を持ったんです。周りの子達がティーン雑誌を読んでいるなか、モデルという仕事に就けば女性として胸を張って生きられるんじゃないかと思いました。

モデル事務所に所属はしたものの、ティーン雑誌には背が高すぎるし、大人向けの雑誌には顔が幼すぎて出られない時期が長く続いたのですが、18、19歳頃になると、来日してショーを行う海外の有名ブランドのデザイナーさんの仕事では、常に選ばれるようになりました。日本のデザイナーさんにはあまり受けがよくなかったのもあって、「もしかしたら私の居場所は日本ではないのかもしれない」と思い、大学を中退してパリに移りました。

小出大二朗(ORGABITS/以下、小出):ファッションがお好きでモデルになられたのかと思っていたので、意外でした。モデルとして活躍する中で、ファッションに関してどんなことを感じましたか?

TAO:私たちモデルは、コレクションのショーの前に洋服を着てみるフィッティングというものに参加します。例えばシャネルのオートクチュール(オーダーメイド服)のフィッティングに行くと、当時はまだカール・ラガーフェルドが健在だったのですが、フィッターさんが私たちモデルにお洋服を着せて、部屋を歩かせてカールにプレゼンするんです。それをカールは椅子にどしんと座って見ていて、カールが「OK」と言えば写真撮影に向かうのですが、写真撮影に移動するときに、フィッターさん、洋服を1着1着作った職人さん達が、みんな大喜びするんです。「カールに承認された!」って。みなさん長年職人として働いていた方々で、英語も通じなくてコミュニケーションが難しかったのですが、「これで私たちが作った一つの作品が世に出るんだ!!」という喜びがひしひしと伝わってくる。作品にかける情熱、献身を目の当たりにして、ファッションのアートとしての側面を、本当にすばらしいと感じていました。

モデルとしての暮らしのなかで感じたファッションへの違和感

小出:歴史や哲学を大事になさっているブランドさんの洋服作りは、本当にアートのようですばらしいですよね。

TAO:そうなんです。ただ、ファッションをアートとして美しい、すばらしいと思う一方で、デザイナーの友達を見ていると、常に新しいデザインを作ってはセールに流れて売れ残って、でもまた新しいものを作らなければいけないという目まぐるしさを不思議に思うこともありました。世界的なブランドでは、プレタポルテ(高級既製服)とオートクチュール(オーダーメイド服)のコレクションがそれぞれ秋冬、春夏の年2回、それから秋前にプレフォールと呼ばれる新作発表の場と、5回も発表の場があるんですよね。

またコレクションは、NY、ロンドン、ミラノ、パリと約一ヶ月かけて開催地を変えて続くのですが、その期間、つまりファッション・ウィークには「ストリートスナップ」が行われます。日本では特に人気だと思うのですが、雑誌のライターさん、エディターさん達が街を歩くモデルやおしゃれなエディターさん達の写真を撮って雑誌に載せるんですね。

そのストリートスナップを受けるのも、モデルの仕事の一部のようになっていて。ただでさえストレスフルな生活の中に、毎回、最新コレクションのお洋服でおしゃれなスタイリングをしてカメラの前に登場しなければいけなかったんです。それはお洋服を売るためには大事なことでもありますし、売れているモデルだ、ファッションリーダーだと認識されたいと思っていたり、ファッションを大好きだったりしたら、たぶん楽しめたのだろうと思います。

でも私は、最先端なものを着なければいけない、知っていなければいけないという空気感に馴染めず、強迫観念を感じていました。ファッションの、作品を作るようなアートの側面と、売らなければいけないという商業的な側面、人気商売としてのモデルのお仕事の狭間で苦しかったなと、今になると思います。

安里紗:わかります。違う世界ではあるのですが、私がギャル雑誌のモデルをしていたときにも、毎月の雑誌に各モデルの1週間のコーディネートを載せる私服企画があって、それを楽しみにしてくださる方がたくさんいたんです。お洋服の一部はリースもさせていただいたのですが、基本は本物の私服を見せる企画だし、先月のものは出しにくいけれど高いものばかり買うこともできないし、ファストファッションのものを取り入れて、プチプラでこんなにおしゃれにできるよと伝えていて。

その時には一生懸命だったので気づかなかったのですが、ある日帰ってきたときに家に洋服が溢れていることに気づいて、心が疲れてしまうようなところがありました。自分が着て喜ぶ服というよりも、見せるための服だったと気づいたのもあります。

今、モデルの仕事をしていない人でもSNSというコーディネートを見せる場があるために、いつも同じ服ではだめだとか、最新のお洋服で写らなければいけないという感覚が広がっているように思います。「いつも目新しいお洋服を着ている人がおしゃれ」という空気がありますよね。でもこれはただの空気であって、いつも同じ服を着ていることや本当に気に入った服を大事に着ていることだって美しい。そういう美しさも示していかないといけないなと感じます。

TAO:本当にそうですね。

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