INTERVIEW
2021.08.25UP
サステナブルのその先へ。鎌田安里紗さんの重視する「多彩性」。

ORGABITSが社内から発信し続けることの、豊島にとっての意味

小出:鎌田さんはアンバサダーをなさる前からORGABITSや豊島のことを知ってくださっていましたよね。アンバサダーとして内部から見ていただいて、印象は変わりましたか?

鎌田:変わりましたし、希望を持ちました。外から見ていた時には豊島さんは繊維商社の中でも早くから積極的にサステナビリティに関する取り組みを推進されていたので、新しいサステナブルな取り組みも「ああ、豊島さんならできるよね」などと、できて当然のことのように思っていました。でも、実際に内部に入れていただいて、内部にはいろんな考えの人がいるとわかったんです。熱心な人もいれば、ちょっと引いた目で見ている人もいる。そこにORGABITSのチームが働きかけることで、結果的に「サステナブルなことができる豊島」になっているのだ、とわかりました。それは、社外にいる立場からすれば希望が持てることだと思うんです。他社さんも、豊島さんのようにサステナビリティに力を注いでいくことができるかもしれないということですから。

小出:僕らORGABITSチームは、社内でORGABITSをお得意先様とのミュニケーションツールとしてうまく活用してくれる社員を増やしたいと思っているんです。発注くださる企業様、ブランド様にもいろんな方がいらっしゃいます。ORGABITSの、オーガニックコットンの使用量全体を増やすために「オーガニックコットン100%ではなく10%使った布を」という発想や、「ちょっと」を重視する姿勢、商品代金に社会的な取り組みをしているさまざまな団体への寄付を盛り込む仕組みなどに共感してくださる方もたくさんいるんです。そういった企業様、ブランド様に、うまくORGABITSを紹介できて共感を得られた営業は、お得意先様とそれまでとはちょっと違う、「すばらしい未来に向けて取り組む仲間」のような関係になれます。それは楽しいことだと思うんですよね。そして、ORGABITSを勧めてお得意先様から共感を得られた営業は、他のお得意先様にもORGABITSをうまく紹介してくれるようになるんです。

鎌田:ORGABITSチームの中でも、どんどん変化が起きているように感じます。私がアンバサダーをやらせていただくようになってから、ORGABITSチームに異動なさってきた社員さんも、ずいぶん変わりました。いろいろ勉強なさって、教えてくださいますよね。

小出:ORGABITSの寄付先のNPOさんなどとのやりとりも頻繁にありますから、自然と社会的なものに目が開かれていきますね。

鎌田:チームの皆さんそれぞれが、ビジネスライクではなく、ご自身の暮らしや興味と重ね合わせて楽しんでいるように感じます。肩に力が入っていないところがすてきですね。また、最初はオーガニックコットンの全体的な使用量を増やすという発想で生まれたORGABITSは、今はさまざまな団体に寄付をするプロジェクトや、新しいエシカルブランドの展示会出展を支援をなさっていますよね。ORGABITS自体がどんどん進化していくところがすてきですね。

「サステナブルの大波」にざわつく気持ち

鎌田:社会的なうねりもあり、ORGABITSもさまざまな企業さん、ブランドさん、団体さんに共感されています。「サステナブル(持続可能)」という発想を超えて、「リジェネレーティブ(再生可能)」なものづくりを、と世の中はさらに進化しようとしてもいます。今までORGABITSや私自身がやってきたことに、追い風を受けているとも言えます。でも、「サステナブルの大波」にちょっと心がざわざわするところもあります。

小出:どういうことでしょう?

鎌田:どの企業も、これまでのものづくりのあり方を大幅に変えなければならないタイミングなのは間違いないので、変化自体は必要なことです。ただ、たとえば大手ブランドが「これからはサステナブル 素材を使います」と発信した場合、多くの消費者は、今までも真摯にオーガニックコットンでものづくりをしてきた企業さんとの違いに気づけないでしょう。結果的にアクセスしやすい場所にあって、買いやすい値段のものが買われやすくなってしまい、小規模ブランドは淘汰されてしまう可能性があります。

小出:たしかに、さまざまな業界でサステナブル化が進んでも、「大手企業の作った低価格の食品だけを食べ、大手ファストファッションだけを着て、大手ファスト家具の揃った家に住む」という選択肢しか残らなかったら、楽しくないですね。

鎌田:そうなんです。「大きな数社だけが完全にクリーンなビジネスをやる社会」が良いとは思えないんですよね。また、今問題とされているのが、CO2排出量などの、数値で測れるものに偏っているのも気になります。大事だけれど、少なくとも今は数値で測れない問題や失われつつある価値もたくさんあるはずです。さまざまな企業がその企業なりに解決したい問題や大事にしたい価値を発見して、思想や技術を持ち、手と目が行き届く規模で、ものづくりができる状態がいいのではないかとも思います。それで、今私は「多様性のある健康的なファッション産業に。」をビジョンにした一般社団法人unistepsをやっているんです。

この人類史上、問題がひとつもなかったことは一度もないですよね。今、一心にファッション産業のCO2排出量の問題だけを、大きな企業だけが残れるような今の生産消費活動の中で解決しても、今後別の問題が起きてくるかもしれない。そのときに、ファッション産業のなかに解決の緒をもつ企業がなくなっていたら困ります。

小出:たしかにそうですね。たとえば農業も完全にサステナブルするなら、火星での循環型農業を描くマット・デイモン主演の映画『オデッセイ』のようにやるしかないね、と社内でときどき冗談混じりに話します。農業は天候が関係してしまうから、天候もコントロールするとなると、ああいうやり方しかとれなくなる。でも、そういったやり方だと育てているジャガイモに病気が出てしまったら、もう手段がありません。それは極端な例としても、多様性のない状況だと味気ないですよね。

鎌田:自然のなかの不確実性を全部排除することがいいことなのかも、本当はわからないとも思います。資本主義的には不確実なことはない方がいいですが、不確実性があるからこそできることもあるかもしれないですよね。

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