INTERVIEW
2021.08.25UP
サステナブルのその先へ。鎌田安里紗さんの重視する「多彩性」。

エシカルファッションプランナーで一般社団法人unisteps共同代表の鎌田安里紗さんがORGABITSアンバサダーに就任し、Bits magazineがスタートしてから8月27日で早1年。その間に、ファッションを取り巻く環境にはさまざまな変化がありました。そこで今回は、ORGABITSプロデューサーの小出大二朗がインタビューアーとして、鎌田さんにインタビュー。鎌田さんが感じている現在の潮流とそれに対する懸念、今後のORGABITS(ORGABITS)に期待することを聞きました。

※この記事は、ORGABITS発行のタブロイド紙に掲載した記事を編集・掲載したものです。

服選びの基準に含まれるのが当然になってきた「サステナブル」

小出:アンバサダーになっていただいてから1年経ちました。コロナ禍の1年でしたが、ファション業界の潮流をどのように感じていますか?

鎌田:大きなうねりが起こっていると感じています。環境配慮、気候危機対応が広く求められるようになっていると感じます。SDGsがスタートした2015年くらいから徐々にビジネスの世界でも変化が起こり始めていましたが、この1年の間に国会で「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、レジ袋有料化がスタートするなど、スピードが加速した印象です。これまで長い間、エシカルやサステナブルはメインストリームとは外れた場所で、啓蒙的に「これが大事ですよ」と主張するような立ち位置だったけれど、ここにきて一気にメインストリームなトピックになったと感じています。

小出:「サステナブル」を前面に打ち出すブランド・企業もあれば、別のコンセプトを打ち出しつつ、きちんと環境に配慮しながらものづくりをしているところもありますね。

鎌田:サステナブルブランドを標榜しなくても、ライフサイクルアセスメント(LCA)を行ったり、Bcorp認証取得を目指したりする企業が増えました。企業によってさまざまな打ち出し方がありますが、お客様が物を選ぶ際の重要なポイントとしてサステナビリティが入ってきたなか、各社が調べたらわかる状況にし始めたのはすばらしいことですね。

私は2008年ごろ、SHIBUYA109で販売員をやっていたのですが、大手ファストファッションブランドの日本1号店ができて、一気に服選びの基準が変わってしまうのを目の当たりにしました。それまでは、「ちょっと高いけれど、大好きだから頑張って買う」とおっしゃるお客様がいたのですが、その店舗ができてから「さっき行ったファストファッションのお店で似たものがもっと安く売っていたよね」とラックに戻して去っていく方が増えたのです。モデルをやっていた雑誌でも、「高く見えるプチプラコーデ」などの企画が増えました。そんな状況に身を置いていて、服を選ぶ基準が価格に偏りすぎるのは何か違う気がすると感じていました。

その後、服の生産地を尋ねるようになり、デザインや価格だけでなく、生産者のこだわりや原料生産の環境インパクトなど、さまざまな角度から服について考え、選ぶことができるのだと知って、そんな風に服を選ぶことの楽しさを広めたいと思うようになりました。少しずつ、服を選ぶ際に多角的な情報を得られるようになってきたことが、とてもうれしいです。

販売員さんは、CSVを考える上でも非常に重要な存在

小出:販売員さんといえば、4月末に行われたFASHION REVOLUTION JAPANのトークセッションで鎌田さんをはじめ、多くの登壇者が来場したお客様に向けて「洋服の作られ方、生地について、販売員さんに聞いてください」と呼びかけていましたね。お客様に最も近いところにいる販売員さんを重視する姿勢が印象的でした。

鎌田:販売員さんって、非常に重要な存在ですよね。今の日本では雇用形態も不安定でプロと見てもらえないことも多いですし、私が販売員だった頃も販売員から本社の企画職に抜擢されるのが、花形コースというイメージでした。でも、販売員さんは毎日、不特定多数の、何十人、何百人というお客様と接しているんですよね。

小出:お客様のリアルな反応を知っている販売員さんがFASHION REVOLUTIONなどのイベントに登壇したらおもしろいでしょうね。一般的には商品企画、生産管理、パタンナー、デザイナーと、お客様から遠ざかるにしたがって限定された人としか話さなくなります。いくら本社にいる人間が環境を考えて何か取り組みをしようとしても、実際のお客様に意図が伝わらなければ、お客様に「不便になったなあ」としか思われないこともありますよね。

鎌田:そうなんですよね。販売員さんは本社の決定に対するお客様からの苦情に対応する役割も負っています。本社が政府の方針に先立ってレジ袋の全廃を決めたとある企業さんでは、小売店で販売員さんが「この店は袋までお金をとるのか」とお客様から怒られてしまって大変だったと聞きました。ただ、その時に販売員さんがその意図を自信を持って説明できれば、企業の価値を伝えることにもなったと思います。なかなか難しいことですが。

販売員さんは常に不特定多数のお客様と接し、瞬時に相手の興味やテンション、何をどれくらい知りたいと感じているかなどを判断しながらコミュニケーションをとり、自社の情報を提供しています。非常に難しくて、重要なことですよね。

小出:SDGsへの意識の高まりとともに、CSR活動をCSV活動へと発展させていく企業が増えています。そのなかで、お客様や社会に知識を伝えたり、教育機会を提供したりすることを重視している企業が増えていますよね。たとえばネスレさんは、ステークホルダーを1)消費者、2)事業パートナー、3)競合他社、4)従業員、5)政府・地域社会、6)投資家と定義したうえで、ステークホルダーに対して与える価値を、経済価値、社会価値だけでなく、「知識価値」も含めると明示しています。販売員さんは、来てくださったお客様に「知識価値」を提供する重要な存在ですよね。

鎌田:そうですね。お客様や社会への情報や教育機会を提供することは非常に大事なことですし、販売員さんはその役目を担う重要な存在ですね。「教育」「情報提供」というと、一方的に相手に渡すようなイメージがあるかもしれませんが、実際には「仲間を増やす」という側面もありますし。

小出:販売員さんまで一気通貫して、企業の姿勢、ブランドの姿勢とその背景にある知識を提供できればいいですよね。もちろんお客様にとって不便になるような変更の場合は、反発する人はいるかもしれませんが、企業やブランドの姿勢に共感する人もいるはずです。こういう姿勢が取れれば、ファンは増えていきそうです。

次のページORGABITSが社内から発信し続けることの、豊島にとっての意味

1 2 3

Page Top