INTERVIEW
2021.05.24UP
選択肢を増やし、選ぶ力を料理で育みたい。料理家SHIORIさんが今、考えていること

「食」と「衣」の共通点

安里紗:小出さん、さっきからずっと深々とうなずいていますね。

小出:SHIORIさんのお話を聞いて、食の世界と洋服の世界は通ずるところが多いなと驚きました。価格の裏側を考える話も、洋服と全く同じですよね。シャツ1枚作るにも、農家さんがコットンを作り、それを紡いで糸にする人がいて、布にする人がいて、染める人がいて、縫う人がいて、小売店に届いて……と、非常に長い時間と多くの人の手を費やしているのに、買うと1枚数千円なんですよね。多くの人が服の背景を知らずに着て、要らなくなったら捨ててしまうことへの違和感を、よく安里紗さんとも話しています。

安里紗:私自身も、もともとショップ店員として服を売っていたのですが、自分が買う場合は似ているデザインだったら安い方がいいな、なんて思って服を買っていた時期もあります。でも、生産背景を知るようになって服づくりに関わる人の多さや、工程の複雑さに驚いたんです。ボタンを押せば自動で服が縫えるわけではないんですよね。今、参加者にコットンの種を送って自宅で育ててもらい、できたコットンを収穫して実際に衣服を作る「服のたね」というプロジェクトをやっているのは、その驚きを共有したいからなんです。

「服のたね」でも、環境問題の話を積極的にするわけではないですが、実際にコットンを育てる過程で虫がきたり、うまく育たなかったり、いろんなことが起きる中で、自然と生産背景の話になります。5月に種を撒いて収穫が11月ぐらいで糸にして生地にして、となると服を作るのには1年以上かかるとわかったりするんです。こういう経験をすると、値段の見え方やオーガニックコットンへの考え方が大きく変わりますよね。

小出:価格の裏側を想像してもらうことはとても重要ですよね。それから、SHIORIさんがおっしゃった「気持ちの良い選択肢を伝えておいて、そちらを選べるようにしておく」ということや、お料理初心者にはインスタント出汁でいいけれど、少しずつグラデーションをつけていろいろ選べるようにしていく、ということも洋服と同じだと感じました。

ORGABITSも、いきなり「オーガニックコットンを100%使おう」とハードルをあげるのではなく、10%でもいいからオーガニックコットンのものを使えるようにしていく、という発想でできたんですよ。

SHIORI:構造的にとても似てますね! 料理をきっかけに値段の裏側を考える意識やオーガニック食材を選ぶ姿勢が根付いたら、次は「服の場合はどうだろう」と想像する範囲を広げていけるといいですよね。

安里紗:そうですね! 衣服も毎日着るものだから、料理と同様に生活に密着しています。「食」と「衣」は一緒にできることがあるんじゃないかと思いますね。

それから、先ほどSHIORIちゃんは「選択肢がいろいろあるってことはすごく豊かなことだ」とおっしゃっていましたが、お洋服も全く同じだなと思いました。私がエシカルファッションに興味を持ったのは、デザインと価格以外の判断基準として、糸の種類やコットンを育てるときの農法、染色の工夫など、いろいろな生産背景を知って選ぶ楽しさに気づいたからなんです。こんな服の選び方は、雑誌には載っていなかったな、もっと早く知りたかったなって思って。

問題意識もあるけれど、どちらかと裏側を知るおもしろさを多くの人に知ってもらうきっかけを作って、選びたい人が選べる状況がいいなと思っています。

オーガニックを選ぶことは、個性を認めていくこと

安里紗:私がオーガニックやサステナブルといった文脈に惹かれるのは、その人なりのこだわりを持ってやっている人が多いからです。「トレンドだから」「効率的に利益が出るから」という理由で仕事をしている人よりも、さまざまな、その人なりに考え抜いた信念をもとに仕事をしている人の話を聞いていたいと思うし、そういう人からものを買いたいと感じます。SHIORIちゃんはどういう点で魅力を感じていますか?

SHIORI:オーガニック野菜も、オーガニックだからといって、必ずしもおいしいとは言えないんですよね。ただ、今、一般的なスーパーに並んでいる野菜は、個性が消されてしまっている気がします。一つの規格に合うように色や形、サイズが整えられたものがスタンダードとなり、消費者もそれが当たり前の姿だと思ってしまっている。でも、人間がこれだけ個性豊かであるように、野菜だって個性があるのが本来の姿です。そういうありのままの姿を受け入れられるようなおおらかさを持ち合わせたいなぁと思います。

安里紗:ハズレを減らしたい、という気持ちを持つ人が多くなっているのかもしれませんね。おいしくないものを買いたくない、レストランでも食べておいしくなかったという経験を避けたいという意識が強くなっている印象です。でも、実は失敗した方がおもしろいんじゃないかと思うこともあります。

何年か前にきゅうりを自分で育てたんです。大事に育てて、ようやく食べ頃の大きさになったから、めちゃくちゃうれしくて収穫して喜んで食べたら、味が薄くてまずかった! でも、なんかおもしろかったんですよ。こんなに一生懸命にやったのにまずいのかって。ハズレを楽しめたらいいなって思ったんですよね。

SHIORI:経験がネタにもなりますし、農家さんへのリスペクトも生まれますよね。これだけ人間社会において多様性が求められる時代なんだから、もうちょっと広い心で受け入れたら楽しい。それに、料理の腕があれば、どんな野菜でもちゃんとおいしく食べられるんですよ。

小出:ああ、そうすると、おいしくない野菜って、「ハズレ」じゃないんですね。人間だって個性を生かすような教育をするんだから、野菜もコットンも、同じように考えていけばいいんですね!

安里紗:たしかにそうですね! 野菜に均一性、画一性を求めていったら、人にも求めてしまいそうですもんね。

SHIORI:巡り巡って自分の首を締めることになりそうですもんね。

安里紗:そのときどきの味の違いも楽しみながらお料理をしていけたら、さらに楽しみが増えて生活が豊かになりそうです。今日はいろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

Text: フェリックス清香
Photograph: Martineye
(Instagram: dennoooch)

GUEST
SHIORIさん料理家
1984年佐賀県生まれ。22歳で料理家デビュー。レシピ本『作ってあげたい彼ごはん』をはじめ、著書累計は400万部を超える。フランス・イタリア・タイ・ベトナム・台湾・香港・ポルトガル・スペインでの料理修行経験があり、和食にとどまらず世界各国の家庭料理を得意とする。中目黒にある100%veganのファラフェルスタンド「Ballon」オーナー。代官山のアトリエでは料理教室『L'atelier de SHIORI』を6年間主宰する。2020年夏からはレッスンの場をオンラインへと移し、現在は8,000名超えの受講生を抱える人気レッスンになっている。一児の母で、家族が喜ぶ家庭料理を幅広く提案している。https://online.atelier-shiori.com/about
INTERVIEWER
鎌田 安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
Instagram: arisa_kamada
INTERVIEWER
小出 大二朗
豊島株式会社営業企画室所属、ORGABITSプロデューサー。1966年1月神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1989年立教大学経済学部卒業後、株式会社三陽商会に入社。営業、企画マーチャンダイザーを経験後、企画責任者を経て、英国ライセンスブランドのメンズ総責任者を担当。その後、米国ライセンスブランドの事業責任者、マーケティング部門の責任者とあらゆる職務を経験。2017年豊島株式会社入社後、出資会社の副社長を経て現職。
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