INTERVIEW
2020.08.27UP
小さな幸せの積み重ねが変えていく。「語れるもので、日々を豊かに。」を掲げるファクトリエ流、変化の起こし方

矛盾を心配する前に、まず必要なのは行動

鎌田:ファクトリエでは長く使える良いものを販売していますよね。私個人も、ものを買うときには長く使える良いものを買って大事に使いたいと思うのですが、一方で、良いものを作ってくれる人を買い支え、その産業が続くようにしたいという思いもあります。一回に使う金額が増えたり、リペアをお願いすることで長く関わり続けたりと、両立する方法は色々あると思うのですが「消費が止まることに関しては、どう考えるんですか?」と質問されることがあります。たしかに、そこには矛盾があるんですよね。その点について、山田さんはどうお考えでしょうか。

山田:小さな国の場合はその矛盾が問題になると思うのですが、日本の場合は心配しなくても良いと思います。日本のアパレル市場は年間10兆円ほどと言われています。そして、ほとんどの人がファストファッションを買っていますよね。その人たちがほんのちょっとでも日本製の良い品を買ってくれたら、日本の縫製工場は仕事が非常にやりやすくなります。だって、年間の衣服購入費の0.001%で10億円なんですよ。日本の縫製工場に10億円も流れてきたら、みんな大喜びします。

小出:ORGABITSと発想が似ていますね。ORGABITSを始めた頃、世界のオーガニックコットンの流通量は0.6%ぐらいだったんです。それなのに、「オーガニックコットンを100%使わないと正義じゃない」といった風潮がありました。でも、オーガニックコットン10%のものが普及したら、流通量は10倍以上になります。今は、矛盾を心配するタイミングではない、ということですよね。

山田:そうなんです。そして、めちゃくちゃ熱い人だけが使ってくれるだけでは足りないんですよね。僕らのお客さんにも5つの層の人がいます。1つめの層は職人の思いで洋服を買いたいと思う、社会性が高い人たち。2つめは職人技が大好きな人たち。3つめはファッションには詳しくないけれど良いものが着たいから、とりあえずファクトリエで買えば安心だと思うようなファッションビギナーの人たち。4つめは知的好奇心が高くて、新機能を喜ぶ人たち。そして5つめの層が、ファッション上級者でいろいろなものを経験した結果、ファクトリエに落ち着く人たち。

1、2の層が工場ツアーに来てくれるような熱い人たちなのですが、日本だとこの層にそこまで人がいないんです。だから、3〜5の層の人たちにも興味を持ってもらわなければいけません。

鎌田:コアのファン以外に興味を持ってもらうために取り組んでいることとしては、どんなことがあるんですか?

山田:工場に応援コメントを送れるという機能は、その一つだと考えています。自分が何かアクションを起こしたことに対して、反応があるというのはうれしいものですよね。お客さんが工場に反応を届けられる、そして工場から返信が来てクラフトマンシップを感じられる。こういった、小さなことの積み重ねが大事だと思います。

鎌田:こうしたやりとりができることは、お互いにとってうれしいことですよね。最後にお聞きしたいのですが、山田さんがこれからチャレンジしたいことは、何ですか?

山田:「語れるもので、日々を豊かに」というのが僕にとってミッションなので、チャレンジしたいことは変わらないです。お客さんが使いたくなるような商品を、ものづくり、クラフトマンシップによって実現していく、それだけですね。

鎌田:そのためにできることを日々チャレンジなさるのですね。

山田:そうです。日々間違い、失敗し、挑戦する。それの繰り返しですね。

小出:ORGABITSも同じ姿勢でいます。少しずつ地道にやっていくことが大事ですよね。本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

Text: フェリックス清香
Photograph: Martineye(Instagram: dennoooch)

GUEST
山田 敏夫さんライフスタイルアクセント代表取締役 ファクトリエ代表
1982年生まれ。熊本県熊本市出身。創業100年の老舗婦人服店の息子として育つ。大学在学中にフランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務しする中で、一流のものづくり、商品へのこだわり・プロ意識を学ぶ。2012年1月、工場直結ジャパンブランド「ファクトリエ」を展開するライフスタイルアクセント株式会社を設立。年間訪れるものづくりの現場は、100を超える。経産省「若手デザイナー支援コンソーシアム」発起人、毎日ファッション大賞推薦委員。『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命』著者。
INTERVIEWER
鎌田 安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
Instagram: arisa_kamada
INTERVIEWER
小出 大二朗
豊島株式会社営業企画室所属、ORGABITSプロデューサー。1966年1月神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1989年立教大学経済学部卒業後、株式会社三陽商会に入社。営業、企画マーチャンダイザーを経験後、企画責任者を経て、英国ライセンスブランドのメンズ総責任者を担当。その後、米国ライセンスブランドの事業責任者、マーケティング部門の責任者とあらゆる職務を経験。2017年豊島株式会社入社後、出資会社の副社長を経て現職。
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