INTERVIEW
2020.08.27UP
小さな幸せの積み重ねが変えていく。「語れるもので、日々を豊かに。」を掲げるファクトリエ流、変化の起こし方

単なる物質の生産を超えた「モノづくり」

鎌田:今回のインタビューにあたり、山田さんの今までの取材記事を色々と拝読したのですが、「モノづくり」という言葉を大切に使っていらっしゃるなという印象があります。山田さんの考える「モノづくり」とは何なのでしょうか。

山田:情緒的な話になりますが、大切な人からプレゼントされたもの、長く自分が使っているものなどって、単なる物質ではないですよね。1つの「モノ」は、使っていた人の生き方が残ったり、作り手の思いが込められたり、と、いろんな気持ちやいろんな時間が掛け算された結果、できあがると思うんです。「モノづくり」も、機械が大量生産で無機質に作ることとは真逆の、非常に有機的でいろんな人の思いが詰まった行為だと捉えています。

鎌田:単に生産することとは違うのですね。

山田:そうなんです。モノづくりを頑張っている人を、僕は愛を込めて「モノづくりバカ」と呼んでいます。鞄バカ、革バカ、そういう人々は愛おしい。ファクトリエでご一緒している工場はみな、モノづくりへの熱い情熱があります。ちょっと質問したら、2時間でも3時間でも語ってくれる。どんな仕事でもそうだと思いますが、作業として仕事をしてきた人だと、そんなに語れませんよね。僕はそれを大きな価値だと思っているんです。

その思いをお客さんに届けたいから、僕らは機能重視だけの商品の見せ方はしません。機能の背景にちゃんとクラフトマンシップがある、情緒的価値があることが重要だと考えているからです。商品が機能的価値と情緒的価値の掛け合わさってできていることを伝えたいんですよね。

鎌田:「語れるもので、日々を豊かに。」というファクトリエの理念には、山田さんの思いが凝縮されていますね。私も「エシカル」を軸に発信するなかで、「何をもってエシカルとするのか」とよく聞かれます。エシカルは「倫理的な、道徳上の」という言葉ですが、環境に配慮する、労働環境に配慮する、伝統技術を使う、などといろんな倫理の基準がある中で、人によって重視するものが違うので、定義が難しいんですよね。

でも、その人なりの倫理基準で「これだけは」「ここを大切にしている」と、何か誇りを持って語れることがあれば、それはエシカルだと思いますし、私自身が心を打たれます。「語れること」は1つの明確な基準ですね。

「ラグジュアリー」の定義の変化

鎌田:「語れるもので、日々を豊かに。」という言葉にある「語れるもの」は、「作り手が語れるもの」と「買った人が語れるもの」の両方の意味がありますよね。作り手の思いが伝わるから、買う人が語れる、語りたくなるのだと思うのですが、最近私は作り手が見えるものを買うことが贅沢だな、と感じています。「これが良い」と世間で言われているものを消費することは、私にとっての贅沢ではないなと感じるんです。

先日、山田さんは「自然栽培の野菜たちが届いた。何よりの贅沢」と写真付きでツイートなさっていましたよね。山田さんにとってのラグジュアリーは単なる高品質で高価格なものではないのだろうなと感じたのですが、贅沢、ラグジュアリーをどう捉えていらっしゃいますか?

山田:今までラグジュアリーブランドを選んで着ていた人の多くは、その洋服から「これを着ていればバカにされない」「お金持ちだと思ってもらえる」という安心感を得ていたのだろうと思います。でも、コロナ禍によって自宅で過ごす時間が増えた結果、他者に見せるための服ではなく、自分が幸せに快適になるための服を選ぶようになったと思うんですよ。それは洋服に限った話ではないですよね。

鎌田:先ほど山田さんがおっしゃっていた「他社との比較はしない。見るべきは自分がどうありたいか」という発想に繋がってきますね。自分の中から出てくる感覚で選ぶ、ということですね。

山田:スポーツに例えるならば、今まではサッカー、バスケ、水泳、いろいろな競技があって、いろんな選手がいるのに、サッカーのルールしか適応されていないような状態だったんですよね。つまり、いろんな価値観があるのに、僕らは全てのことを「お金」の軸で判断しすぎていたと思うんですよ。

農家でめちゃくちゃおいしい野菜を作る人、頑張っているモノづくりの職人、小学校の先生、専業主婦、みんなチャレンジしていているから、僕は大金持ちよりも尊敬します。僕にとっては「チャレンジしているか」が一番大切な軸なんです。

鎌田:お金というのは数字で客観的に見えるから比較しやすいんですよね。一方、お金以外の価値は、自分で価値の軸を見つけて測らなければいけないから難しい。でも、それぞれの人が持っている価値観の軸はあるはずだから、そこにもっと重きを置いて、自分が「価値がある」と思うものに自信を持って、何が贅沢かを判断すればいいのですよね。

小出:自分なりの価値観の軸を見つけるために、どうしたらいいと思いますか?

山田:子供の心に戻ればいいと思います。大人になると自分のものではない、さまざまな価値観が染み付いてしまうんですよね。「大人は」「普通は」「ビジネスは」などという言葉で思考停止してしまうと、自分の価値観の軸が見えなくなってしまうんです。

今までは、みんなが集団催眠にかかっていたようなものだったのではないでしょうか。資本主義の中で、都会に出るのが当たり前、お金をたくさん稼げば稼ぐほど良い、という価値観だけで押し進んできてしまいましたよね。その結果、労働者の権利や環境問題など、様々なことが置き去りになったんです。今回の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行も、環境問題が一因だと言われています。ウイルスのある環境に人間が入り込みすぎた結果、ウイルス感染が引き起こされ、人間に広がったとも言えますから。

最近ではその集団催眠にかかっていない人が、地方の工場に行ってモノづくりに従事しはじめているようなところがあると思うんですよね。

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