INTERVIEW
2023.02.07UP
会社員をしながら始めたスーパーで、みんなでゼロ・ウェイストを目指す。斗々屋ノイハウス萌菜さんのあゆみ

企業も個人も変わっていくためには、楽しさが必要

鎌田:4年前にのーぷら No Plastic Japanの活動を始めたとのことですが、その間、ノイハウスさん自身の発信の仕方も変わったけれど、プラスチックを取り巻く環境も法律ができたりと、社会も大きく変わりましたね。

ノイハウス:そうですね。レジ袋有料が始まったのはすばらしいことだと思います。SDGs未来都市などの取り組みも始まって、国レベル、自治体レベルで考えたり、サーキュラーエコノミーという言葉が広まり始めたりしているのは良いことです。ただ、まだ足りないですよね。プラスチック素材を25%バイオマスにする等の小さな変化だけではなく、本質的に使い捨てを考え直すところまで至らなければならないと思います。世界全体がグリーンウォッシュ(実態以上に、環境に配慮した取り組みをしているように見せかけること)に陥る危険があるなかで、誰がどう責任を取るのか、どう発信していくべきか、気になっています。

鎌田:私もファッションに関して発信する中で、責任とグリーンウォッシュは気になっています。例えばある会社の事業のうち20%が良いことをしていて、それを大きくPRする場合、他の80%についても語らないとグリーンウォッシュに見えてしまいます。全くやらないよりは20%でもやったほうがいいなかで、グリーンウォッシュと見られないためには「残りの80%をいつまでに改善したい」などと発信してくれたら良いんですが、「そんな情報には消費者は興味を持たない」と言われてしまうんですよね。消費者の責任になってしまうんです。

また、以前にラジオで激安ファストファッションのブランドについて街の人に意見を聞いた時に、スタッフさんが労働問題について水を向けると「自分に関係があることとは思えない」「興味ない」とはっきり言う人が多かったんですね。それを聞いてスタジオ内で「消費者がこういう状況だと、企業が変わろうと思っても変われないですよね」という結論に落ち着きそうになってしまったんです。そのときに「でも、そうなの…かな?」と疑問を持って。消費者は忙しい中で、値段くらいしかパッとわかる情報がないですよね。それなのに、消費者の責任としていいのかなって。

ノイハウス:それは私もよく思います。消費者に責任を委ねすぎだなって。消費者一人一人にできることって、今はすごく限られてしまっています。プラの個包装のものを買わないようにしようと思っても、選択肢が本当にないですよね。それなのに、なぜ消費者が罪悪感を抱えなければいけないのか、と。以前に、自治体主導で食品ロスを出さないようにしているお店に、ステッカーなどPRマテリアルを配布する取り組みがあったんですよ。「牛乳は手前の賞味期限の近いものから買いましょう」みたいな促しをしている店舗を奨励する取り組みだったのですが、そうやって消費者に責任を投げる前に、なぜロスが出るほど仕入れてしまうかを見直すべきなんじゃないかなって思ったんですよね。

八木:自分自身が消費者の立場、また企業で働く立場で考えると、消費者にも企業にも両方に責任があると思うんです。でも、企業にはまだまだできることがありますよね。CO2削減、オーガニックコットン使用など大事なことをそのまま消費者に伝えても、購買行動の理由にはならないことが残念ながら多い現状もあります。企業側は消費者が思わず買いたくなるような、楽しい、ワクワクする、興味を引くような見せ方を工夫することも同様に大事だと思います。ORGABITSを始めてから、特にそう思うようになりました。

鎌田:ORGABITSさんはそういったイベントをよく考えて取り組まれていますね!かわいい商品で、単純に手に取りたくなるけれど、実はNPOへの寄付付き商品、とか。

「値下げが善」を変えるための、体験の楽しさ

ノイハウス:ワクワクすることを企業側は考えるほうがいいというのは、その通りだと思います。一方で、ワクワクする商品が2つあって、片方がオーガニック認証をとっているなどといった理由で高くなると、戦い方が難しいんですよね。

鎌田:日本では「値下げが善」という発想がずっと蔓延していると、いろんな経済学者も指摘していますよね。それが、日本の貧困化、経済格差につながっていると。

ノイハウス:その結果、賃金も低くなり、最終的には品質も下がってしまうんですよね。斗々屋がメディアに取材される時にも、それがマスメディアの場合は、他のスーパーと比べると高いと言われてしまいます。でも、オーガニックスーパーと比べれば同じか、物によっては安いはずなんです。私たちは直接生産者さんから納入してもらっているし、パッケージのコストもないのでね。でも、大量生産の食品と比べられれば、それは高く見えてしまう。斗々屋は損している人がいない、環境への負荷も低い商品なのだから、大量生産の製品とは比べられないはずなんですけどね。

鎌田:残念ながら、今は「適正価格で何かものを作ったり買ったりしよう」という考え方が、偏ったものだと捉えられてしまっているのでしょうね。でももう、企業努力も価格の点では限界に来ていますよね。

八木:ORGABITSの母体の豊島株式会社は衣料品や、衣料品の原料素材などを卸していますが、洋服ブランドのお客さまなどと話していても価格のバランスを取るのは難しいものだと感じます。お客さまの社内でサステナブルな素材や繊維を使いたいという人がいても、その同じ会社のバイヤーは早く安くできる物を取り扱いたがることも多いんです。この乖離が本当に難しいですね。服の平均価格が1990年では6800円だったところから半値ぐらいになっているなかで、どう値段を上げればいいのかと話すことがけっこう多いです。その一方で供給量は1.6倍に伸びている状況もあるんですよ。

ノイハウス:消費者が買う量も増えているということなんですよね。そんなに買わなくてもいいのかもしれない。半分買うことにすれば、倍の値段をかけられるということですよね。食品もある意味、同じ状況です。もちろん一定量を食べなければ生きていけないけれど、もう少し量を少なく、良い物を買うということはできると思うんですよ。

八木:買ったけど着てない服って、よくありますもんね。

鎌田:私がサステナブルファッションに興味を持ったきっかけの一つに、家に大量に安いお洋服があるのに着たい服が一枚もなくて虚しくなったから、ということもあるんです。ちょっと頑張って買うくらいの値段の服を買って、着るたびによかったなと思うほうがはるかに幸福度が高いなって。消費者が自分にとって本当にハッピーな買い物の仕方を考えることも大事だし、企業側も本当に変えなければいけないことは変えていって、その二つが合流するようにしていきたいですね。

そして消費者が変わっていくためには、新しい体験が必要だと思うんです。お洋服の場合だと、例えば工場で実際に洋服を一点一点手で縫っている現場を見たり、コットンを育ててみたりする体験をすると、今まで買っていた3000円のお洋服があまりにも安く感じるかもしれませんし、今まで高すぎると思っていた3万円の洋服が妥当な金額に思えるかもしれません。その点で斗々屋は、ゼロ・ウェイストな体験を提供してくれるから、普通のスーパーに行った時に「めちゃくちゃゴミが出る」と、差に気付けるんですよね。

ノイハウス:気づき、はありますよね。それから量り売りのお店で買い物をすることで、人参は何本必要なのかな、お豆は何グラム必要だろう、と自分が何をどれだけ必要か能動的に考えるようになる人も多いようですよ。

八木:たしかに、日ごろはパッケージされた商品を何個買うかくらいしか、考えてないですもんね。受動的に買い物しているということですね。

ノイハウス:こういうゼロ・ウェイスト、量り売りが定着していくためには、お店での体験が気持ちよく、より自分に合ったチョイスになるように、利便性を高めていかなきゃいけないと思っています。それが今後のチャレンジですね。京都店では、一度お店に来た時に容器の重さを測ってオプションシールを利用していただくと、次回からはその容器の重さが自動的に引かれて内容量を計算される仕組みを導入したり、カートを工夫して量り売りで買いやすいようにしています。2022年12月からは1年保存が可能なレトルト食品の販売を、リターナブルの瓶を使って始めました。さまざまな取り組みで、より良い体験を提供できるように考えていきたいなと思っています!

鎌田:すてきですね。ゼロ・ウェイストなお買い物は能動的、というお話が心に残りました。斗々屋での体験によって、日頃のお買い物に対する意識に変化が生まれそうですね。今後の斗々屋の挑戦も、楽しみです!

八木:本日はすてきなお話、どうもありがとうございました!

GUEST
ノイハウス萌菜株式会社斗々屋 広報
1992年生まれ。イギリス育ちのドイツ人と日本人のハーフ。二児の母。
日本に引っ越してきてから周囲の「使い捨て」の多さに敏感になり、一人一人ができるところから変えていくべきだと感じ、プラスチックストローの代替品となるステンレスストローブランド「のーぷら No Plastic Japan」を設立。それ以来、環境保護を自分ごととしてとらえ、日常に取り入れられる行動の発信を手がけている。
日本初のゼロ・ウェイスト スーパーマーケット「斗々屋」広報担当。
ラジオ局J-WAVE 81.3「STEP ONE」ナビゲーター。
INTERVIEWER
鎌田 安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
Instagram: arisa_kamada
INTERVIEWER
八木修介
豊島株式会社営業企画室所属、ORGABITSディレクター。1992年生まれ、神奈川県川崎市出身。慶應義塾大学文学部を卒業後2015年に豊島に入社。人事部にて2年間新卒採用担当として採用面接や企業説明会に従事。その後営業部署に異動し、ワーキングアパレル領域の営業を担当。生産管理で中国やASEANの奥地に入り込み、ピーク時には年間100日ほど海外出張。その後2019年から現部署にてオーガニックコットンを中心としたサステナブル素材を担当。物心ついた頃からの趣味はサッカー。
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