INTERVIEW
2022.02.21UP
おもしろい方へ、楽しい方へ。日本酒造りを通じた寺田本家流「自然との付き合い方」

340年の歴史を引き継いでいく

小出:殿様商売だなんて謙遜していらっしゃいましたが、日々変化、工夫をなさっていますよね。直売率も高いと聞きましたが、ファンが多いだろうなと思います。

寺田:直売率は高いですね。だからコロナ禍でもそれほど大きな影響は受けなかったんです。おかげさまで、昨年と変わらない量を今年も作れます。

小出:寺田本家さんは創業340年以上が経っていますよね。歴史の重みを感じるのではないかと思うのですが。

寺田:私は婿なんですよ。先代も婿なんです。もし私が「340年の、寺田本家の集大成を作る」と意気込んでいれば重圧かもしれません。でも、自分としてはバトンを引き継いで受け渡すだけで、自分が背負っているとは思っていないんですよね。「やばい」と思ったら次の人に渡そうというぐらいの気持ちです。おかみさんの方がプレッシャーを感じているのかな。もちろん、これからも井戸が湧き続けるようにしたいとか、自然酒造りを次の世代に渡したい、とは思いますけれど。

鎌田:井戸が湧き続けるためには何か整備などをなさっているんですか?

寺田:近くに森があるのですが、その森とうちの敷地の間に1000坪くらいの広場があるんです。以前は別の会社さんがそこを所有なさっていたのですが、長年思い続けて、5年前にようやくその場所を買うことができました。今はまだアスファルトやコンクリートが敷かれているのですが、少しずつそこに木を植えて森と一体化していきたいなと思っています。

鎌田:お水を敷地内の井戸から得て、お米は近くの農家さんに育ててもらって、菌はこの蔵から得るという自然酒造りを引き継いでいくんですね。菌はどこにでもいるんですか?

寺田:どこにでもいます。太陽の光が降り注ぐかのように、菌が自分たちに恵みを与えてくれているんだなと思います。もちろん、菌によって好む温度や湿度などの条件がありますが、いい状態を整えてあげれば菌はとれます。ここで菌をとっている限り、余計なお金を払って買わなくてもいいんです。菌が与えてくれる恵みの範囲内でやっていけば自分たちも心地よく仕事ができると信じています。

実際、菌が決めてくれる感じもあるんですよ。たとえば、最近「五人娘」の売り上げがいいなと思っている時に限って、酸っぱいお酒がポンとできたりするんです。菌が「お前、調子に乗るなよ。そうじゃないだろう」と戒めてくれているような気がしますね。

鎌田:「菌が与えてくれる恵みの範囲内」、すてきですね。菌が好むことって、どんなことなのでしょう。

寺田:楽しく仕事をすることかなと感じています。蔵人は入れ替わりがあるので、ときにうまく調和できない人がいるときもあるんです。そうすると何か影響してくるなと感じます。できたお酒の味わいに、なんとなく角があってふわっとしない。昔から酒蔵でよく言われる「和醸良酒」という四字熟語があるんですよ。チームワークを発揮し、仲良くお酒造りをしていれば良いお酒になるということなんでしょうね。

鎌田:チームで仲良く仕事をするのは簡単なことではないですよね。

寺田:いろんな人が入ってきますからね。その度に少しずつ変化が起こる。発酵に似た感覚です。だからいつも扉を開けていないといけないなと思っています。

自然を求めて小さくなっていく

鎌田:先ほど、「もっと自然にやっていくにはどうしたらいいかと日々模索しながらやっている」とおっしゃっていましたが、これから新しくやりたいことやさらに探求したいことはありますか?

寺田:まずは、今発酵に使っているタンクですが、ホーロータンクが主で、木桶はまだ少ないんです。もっと木桶を使った酒造りの量を増やしたいですね。その木桶も、地元の千葉の木でできたものを使っていきたいんです。この近くには山武杉(さんむすぎ)と言って、杉の産地があるのですが、今は建材に使われることが多くて桶には使われていません。ただ、昔はこの周りにも桶屋さんはたくさんあって、この周辺の木を使っていたはずです。桶や器など、お酒作りの周りの道具を職人さんが作ったものにしていき、自分たちがお酒造りをしたら職人さんにいろんな仕事がくるという連鎖反応を作っていきたいですね。

それから、エネルギーをあまり使わないお酒造りをしたいと思っています。今は甑(こしき)で一日800kgもお米を蒸していますが、それは大きなタンクに合わせているからです。もう少し小さな量でできればいいなと思うんです。そうすれば、今、熱源にしている重油のボイラーではなく、薪やウッドチップを使えるかもしれません。自分が生きているうちに、もう少し縮小していきたいですね。

鎌田:小さくしていきたいのですか。現代ではどちらかというと、「大きくしたい」という希望を持つのが主流ですよね。

寺田:時代に適した、適度な量というものがあると思うんですよ。例えば今だと寺田本家は年間で約8万本のお酒を作っています。今はその量が適切ですが、これからそうかはわかりません。どれくらいが心地よいかを考えると、もうちょっと小さくなっていきたいなと思っています。

鎌田:おいしいものを作ったら、いろんな人に飲んでほしくなるのだろうと思っていました。「もっとあちこちに届けたい」という感覚ではないんですね。

寺田:日本の酒蔵って、今でも全国に1,200〜1,300軒ぐらいあって、各都道府県に30、40軒ぐらいあるんですよ。別にうちが全国津々浦々に届けなくてもいいですよね。飲みたい人のところに届けばいい。そのためにはあまり無理しない方がいいとも思うんです。余計な借金をしないとか、自分のできる範囲内でやっていくことを大事にしたいです。そうすれば、コロナや10年前の震災のようなことがあっても、急に揺らぐこともないですし。そういったスタンスに共感していただけるお客様と仕事をしていきたいですね。

小出:適量生産はサステナブルの本質ですもんね。一方で、お話をずっと聞いていて、寺田本家さんとは違う発想を持っている人に対して、否定なさっていないように感じるんですよね。

寺田:それはそうですね。自然だけが良いとは言えないとも思います。私もスマホは使いますし、車にも乗ります。大量生産で物がたくさん生み出されているおかげで世の中が成立できている面もありますし。みんなが自然のものだけで生きていけるかと言ったら、そうではありません。自然と、そうでないものはコインの裏表だと思うんです。この世の中で「自然」と銘打ったものを作っていくとは、どういうことなのだろうと常に考えています。

小出:今の風潮だと、たとえばサステナブルを謳う人は「サステナブルという言葉がなくなる時がゴールです」といった落とし所にすることが多いですよね。でも、人間の営みを否定し切らず、「自然とは」を問い続けていくような姿勢は今求められていると感じます。いやぁ、よい学びをいただきました。

鎌田:本当に幸せなインタビューでしたね。すてきなお話、ありがとうございました。

GUEST
寺田 優さん寺田本家 24代目当主
創業340年以上。先代の頃から自然酒造りに取り組み始め、今では原料は全量無農薬米を使用。一切添加物は使わず、微生物も純粋培養ではなく全て蔵付きの菌で発酵する。出来るだけ機械は使わずに唄を唄いながら、手造りで微生物と響き合いながらお酒を造る「寺田本家」の24代目当主。1973年大阪府生まれ。学生時代のバックパッカーに始まり、動物を撮影する動画のカメラマン、世界中の農業研修を経て、寺田本家に婿入りする。地元、千葉県神崎町を活性化する「発酵の里プロジェクト」代表世話人も務め、稲刈りイベントや、小学校で大豆の豆まきから始める未噌作り授業を行うなど、「発酵」を身近に感じてもらえるような活動も展開している。
INTERVIEWER
鎌田 安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
Instagram: arisa_kamada
INTERVIEWER
小出 大二朗
豊島株式会社営業企画室所属、ORGABITSプロデューサー。1966年1月神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1989年立教大学経済学部卒業後、株式会社三陽商会に入社。営業、企画マーチャンダイザーを経験後、企画責任者を経て、英国ライセンスブランドのメンズ総責任者を担当。その後、米国ライセンスブランドの事業責任者、マーケティング部門の責任者とあらゆる職務を経験。2017年豊島株式会社入社後、出資会社の副社長を経て現職。
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