みんなで “ちょっと(bits)ずつ” 地球環境や生産者に貢献しようという想いから始まったORGABITS(オーガビッツ)。そこから始まった「BITS MAGAZINE」では「ちょっといいこと」を実践し続けている方々へのインタビューを行っています。
今回のゲストは、2018年の開店からわずか3ヶ月でミシュランガイド東京2019年の一つ星を獲得した、西麻布の和食「山﨑」店主 山﨑志朗シェフ。豊島株式会社でオーガニックコットンの白衣をあつらえたことがきっかけで実現したインタビューですが、思想の根っこにはORGABITSと共通する思いがありました。食材にかける思い、スタッフさんの仕事環境、オーガニックコットンの白衣をあつらえたわけなどを、ORGABITSアンバサダーの鎌田安里紗さんと、ORGABITSプロデューサーの小出大二朗とORGABITSメンバーである八木修介が聞きました。
※取材はマスクを着用し、最小限の参加者のみで行い、写真撮影時のみマスクを外しています。
白衣をORGABITSで作ろうと思ったきっかけ
鎌田安里紗さん(ORGABITSアンバサダー/以下、敬称略):今回の取材は、山﨑さんがお店で着用なさる白衣を、豊島さんで発注なさったというご縁から実現したのですよね。
小出大二朗(ORGABITSプロデューサー/以下、敬称略): そうなんです。スタッフさんのものも合わせてオーガニックコットン100%のものをご注文くださいました。本日はよろしくお願いいたします。
鎌田:山﨑さんはなぜ白衣をオーガニックコットンのものにしようと思われたのでしょうか。もともとオーガニックや環境に興味をお持ちだったのですか?
山﨑志朗さん(西麻布の和食「山﨑」店主、シェフ/以降、敬称略):いえ、オーガニックや環境に興味があったわけではありません。正直言うと、SDGsやサステナビリティという言葉には少々懐疑的な部分もありました。気軽に言葉にするけれど、流行り言葉のように使っているだけではないかと思う時もあり、どうして接して良いかわからなかったんです。
鎌田:たしかに、言葉が一人歩きしている感もありますね。
山﨑:そうなんです。ただ、食材は明らかに年々良いものが減っているんですよ。その結果、去年までは1万円5千円だったものが、1万8千円などと値上げされた上に状態が悪くなっていることもあって、競りによっては2万5千円になるという状況が起こっています。食材の取り合いが熾烈になっているのです。良い食材を得られないとお客様に良いものが提供できなくなりますし、これがこの先も続くと辛いなと感じます。
鎌田:お客様への提供価格を上げることにもつながってきますよね。どんな食材が得にくくなっているのでしょうか。
山﨑:海の食材と、天候に左右されやすいものが顕著です。松茸などは、少し前まで1キロ6~7万円くらいだったのですが、先日は「ようやく1キロ集めました、30万円になります」と言われました。昔はさらに採れて、食べ飽きるほどだったと聞きますが、ここ数年だけ考えても明らかに減っています。
八木修介(ORGABITSメンバー/以下、敬称略):海の食材も減っているんですか? 魚は毎年不漁だというけれど、結果的に獲れているようなイメージがありました。
山﨑:やはり獲れなくなっていると思います。たとえばクロマグロの鯖ぐらいのサイズのものは規制があるので市場では売れないのですが、網で獲ると大きなものと一緒に獲れてしまうんですよね。でも売ることはできないから、生き返るわけでもないのに船の上で海に捨てているのです。こういうことを繰り返してきた結果、これから育つだろう、状態のいいものが減っているのでしょう。
鎌田:漁業の規制をしないと、海がすっからかんになってしまうと聞きますよね。シェフたちが団結して水産業界に働きかけるのは難しいのですか?
山﨑:飲食業界って、業界サイズは大きいのですが小さなビジネスばかりで、取り仕切る人がいないんです。だからロビー活動もないんですよね。でもさすがに何かしなければ、と感じていました。そこに、オーガニックやエシカルに詳しいお客様がいて、豊島さんのことを教えてくださったんです。白衣をオーガニックコットンにしたからと言って、明日からの蟹が良くなるわけではないのですが、まずはできるところから、と思いました。
鎌田:意識が変わったという表明のような、白衣なんだなと感じました。
食材を見る観点に自然と含まれてくるもの
鎌田:食材が得にくくなっているとのことですが、そもそも食材はどうやって探すのですか?
山﨑:自分が食事や旅行に行ったときに探したり、八百屋さんや農家さんから直接ダイレクトメールをいただき、一箱試しに買ってみて3日連続で食べてみたりして探しています。さまざまな生産者さんから産直で送ってもらえるので、正直、今は豊洲で買い物をしなくても良い食材は得られますし、この場所でなくても同じクオリティのものを提供できると感じています。
鎌田:その際に、オーガニックの野菜やサステナビリティを意識している食材を選んで使う、といったことはなさいますか?
山﨑:いえ、オーガニックだから、サステナビリティを意識しているからという理由で食材を選ぶことはありません。良い作り方・獲り方をしている食材を工夫して食べることはもちろん大事なことではありますが、このお店でやることではないと思うんです。あくまで、その日、お客さんが一番おいしいと思ってくださるだろう食材を、選び続ける必要があると考えています。といっても、化学肥料を使わず、土作りからなさっている生産者さんから買うことはよくありますよ。ただ、オーガニック認証を受けるのは大変だと聞きましたし、生産者さんが認証をとっているかどうかにはこだわってはいないのです。 鎌田:それをお客様にお伝えすることはあるのですか?
山﨑:お客さんに聞かれたらお話ししますけれど、こちらからしゃべることはないです。お客さんがオーガニックを期待していらっしゃるかどうかはわかりませんし、そうでないのにお話ししても、こちらの気持ちの押し付けになってしまいます。例えばデートでいらっしゃっているお客様にそんなことを言っても戸惑われてしまうかもしれません。
小出:確かにそうですね(笑)。お客様とはよくお話をなさるんですか。
山﨑:はい、カウンターのお席が多いので、一言もしゃべらずにお帰りになる方はいらっしゃらないです。でも、長い説明をすると疲れてしまいますし、お店は17時半と20時半にコースが一斉にスタートするので、料理をお出しするタイミングが揃っていますから、そこでいちいち説明を挟んでしまうと、お客様をお待たせすることになってしまいます。気楽に楽しんでいただくために、さらさらっとお話しする方が好きなんです。だからせっかくオーガニックコットンの白衣を作ってもらっても、あまりお話はできないかもしれません。
小出:説明が長くなってしまいますからね。お客様から聞かれたらさらりとお話しくださればうれしいです。
鎌田:先ほど、食材選びではサステナブルが基準ではなく、「その日、お客さんが一番おいしいと思ってくださるだろう食材」を選ぶとおっしゃいました。どういう観点で、一番おいしいものを見極めていらっしゃるのですか?
山﨑:その季節ごとの旬の食材や具材があるのですが、その旬の食材の、個性が一番際立っているタイミングで献立に入れたいですね。たとえば筍は4月1日から10日までがピークで、そこから先はおいしくなくなってしまいます。だからタイミングを見計らって、ご来店くださるお客さんに、一番おいしいピークのときの一発目にお出ししたいと思っています。前日も和食を食べた方に対して、同じ調理方法の筍をお出ししても、鮮烈な印象を与えられるのは1日目ですから。
鎌田:たしかに日々おいしいお店に行っていて、昨日出たものと同じものが出てしまったら残念ですよね。逆に旬の一番いいときに初めて食べたらハッとしそうです。
山﨑:そうなんです。お客さんがハッとしてくださるときがうれしいですね。その素材らしさをつかんでいるのがいい料理なのだと思いますし。同じ食材でもどういった料理を作るかは試作を繰り返して考え、ベストな状態のものを召し上がっていただきたいと考えています。
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