INTERVIEW
2020.08.27UP
小さな幸せの積み重ねが変えていく。「語れるもので、日々を豊かに。」を掲げるファクトリエ流、変化の起こし方

僕が生まれた熊本県は日本で1、2を争う農業県ですが、野菜を作っても流通側から安い値段をつけられてしまいます。それなのにシャンパーニュでは生産者側がすごい価格をつけても買ってもらえている。こういった、作り手が値付けをする、商品を買い叩かれない状況は幸せだなと思ったんです。だから今ファクトリエでは、工場に売りたい価格を聞いています。お客さんが買ってくれる金額とかけ離れていれば相談し、販売できたら工場と僕らで売り上げを折半しているんです。工場が適切な利益を得て、長くモノづくりができる環境を大切にしたいんですよね。

鎌田:販売価格から工賃を逆算するのではなく、作った人が決めた値段をベースに商品の価格を決めていくというのはとても健康的な感じがしますね。そして、ファクトリエではセールや廃棄をしないんですよね。価格の決定方法を含め、業界の慣習と違うことをたくさんなさっていますが、逆風はなかったのでしょうか。

山田:逆風があったとしても、お客さんが支持してくれるならファクトリエを続けられます。だから、お客さんに喜んでもらえるかどうかが重要でした。これは、先進国でモノづくりが必要なのかというテーマに繋がる話です。今は、海外で作られた70点ぐらいのものが安く買える時代。日本製にするならば、どうしても価格は上がってしまいます。ならば、200点、300点の商品を作らなければなりません。その難しさはありました。

他社との関わりに関しては、どれだけ相手にギブできるかだと考えています。ギブ&テイクのテイクを意識すると、人は幸せになれないと思うんですよ。ギブをすることで幸せになれるなら、自分の幸せは自分でコントロールできます。だから他社との関わりでは、ギブを重視し、他社との比較はしない。見るべきは自分がどうありたいかです。自分がありたい姿に近づくためには、その商品が必要なのかを考えています。

鎌田:事業のあり方も商品の選び方も、業界がこうだからとか、他社がこうだからという判断をするのではなく、山田さんと山田さんのチームが納得できるかで考えているのですね。

小さな幸せの積み重ねで、日本の「モノづくり」に起こす変化

鎌田:ファクトリエで新商品を開発するときは、どのようになさっているんですか? トレンドに合わせたものづくりはされていないと思うのですが、セールや廃棄をしないためにも、しっかり売れることが重要ですよね。

山田:最も望ましいのは工場からの提案です。新技術が生まれたとか、ある技術を違った形で応用できるとか。それに対して「こんな風に使えるんじゃないか」と僕らも考えて相談し、サンプルができたらファクトリエのメンバーに見せて、ほしいかどうかを確認します。やはり社内で買う人が多い商品はヒットするんですよね。そういう、シンプルなことが重要だと思っています。

鎌田:ファクトリエから「こういうものがあったらいいな」と希望を出すことはあるのですか?

山田:工場の自主性がなくなってしまうので、僕らが主導権をもたないようにしているんです。その代わりにやっているのは、「工場共有サイト」というサイトにファクトリエのメンバーが作る、写真やデータを載せた市場調査レポートを公開したり、お客さんの声を伝えたりすることです。これを作ってくださいとお願いすることはほとんどないんですよね。

鎌田:一般的に工場は「こういうものを作ってください」とブランド側から依頼があって、その発注に対して応えるという仕事の仕方ですよね。ファクトリエさんと関わるなかで、工場の方々の意識や感覚が変わったという実感はありますか?

山田:あります。でも、日本の縫製工場は、今まで何十年もずっと、仕事の環境が日に日に悪くなってきたんです。だから、何かが1つ変わったからといって一気に変化が起きる、なんてことはありませんでした。今までは交流できなかったお客さんから、応援メッセージが毎日届くとか、一定の発注が入り続けるとかといった、そういった毎日の小さな幸せが積み重なって、少しずつ工場で働く人々の意識や感覚が変わった8年間だったと思います。

工場ツアーも、最初は工場で働く若い子たちのモチベーションをあげられれば、と思って始めたんですよ。ものを作るというのは作業になりがちで、自分が作っている服が誰かを幸せにしていると感じにくいですから。

鎌田:その工場ツアーが、今ではお客さんの「生産者さんに会いに行きたい、工場を見に行きたい」という気持ちに応えるものにもなっているのですね。ツアーに加えて新しい雇用を生み出すために、「工場文化祭」というお客さんや学生が工場の方々と交流できる場も設けていらっしゃいますよね。

山田:そうなんです。メガネの鯖江やジーンズの児島など、有名な産地は若い人を集めやすいのですが、そうではない産地は若い人の採用が難しいですから。まったく違う業界から、モノづくりがしたいと熊本県天草市の倉岳にあるシャツの縫製工場に転職した人もいて、そういうことがあるとうれしくなりますね。

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