2021.11.05
コラム
「土壌に還る(はず)の生分解ファッション」

読者の皆さんがちょっとだけサステナブルな日常を送る手助けをするコラム、Bits&Tips。第4回のテーマは服の「生分解性」です。少し説明が長くなりますが、ミクロな視点を想像しながら読んでみてくださいね。

とても簡単に言えば「土に還る」という意味で、少し複雑に言えば「物質が微生物や光などの力によって最終的に水と二酸化炭素に分解されるのにかかる時間が数週間から数ヶ月と比較的短い」という意味です。一般的にはコットンやウールなどの天然素材と一部の化学繊維が生分解性があるとされ、ポリエステルなど石油由来の化学繊維は分解に何百年とかかるため生分解性はないとされています。

プラスチックが環境に及ぼす影響や処理にかかる労力や費用を削減するため、もちろん服以外の分野でも生分解性は注目されています。身近なところでは、コンビニ・スーパーの袋や梱包材に「生分解性」と書いてあるのを目にした方もいるのではないでしょうか。他には例えば農業用のマルチフィルム(畑にかぶさっている、あの、苗のところに穴の空いた黒いシートです)や土のうに使われる素材は、放置しておくだけで分解されるのであればゴミ削減だけでなく撤去や廃棄作業の多くが省略できますね。釣り糸も、切れたり海の中に落ちてしまった際に海中の環境で分解されるよう開発が進んでいます。

生分解性が注目される背景に、マイクロプラスチックの問題があります。砕けたプラスチック製品、シャンプーや化粧品に使われる微細なプラスチックの粒、洗濯で流出したポリエステルなどの繊維が土壌や海に流れ出し、食物連鎖に組み込まれたり生物に悪影響を与えたりする問題です。

海にプラゴミが漂って・・・というのは一眼で環境に悪そうだと分かりますが、そうでなくても微細な粒子も影響を与えてしまうようです。この問題に近年スポットライトが当たり、では万一土壌や海に流出してしまったとしても分解されて無害になる生分解性のものを作っていこう!という機運が高まっています。

前出のマイクロプラスチック、実はそのうちなんと35%は化学繊維由来のマイクロファイバー(マイクロプラスチックのうち繊維状のもの)という研究結果(*1)もあります。服の生分解性を高めていくことが、問題解決の大きな糸口になるかもしれません。

お気に入りの服を着て、洗濯の時に出てしまう繊維クズや役目を終えた後の服は微生物の力を借りながら自然に還っていき、健康な土壌からまた新しい食べ物や繊維が育つ。そんな大きな循環の中で生きていけたら、それは生き物の一種として納得感がある、気持ちの良いことですね。


といっても生分解性のシステムはまだまだ発展途上。2021年の今の時点ではまだ、循環の状態には届いていません。というのも、生分解性と言っても分解が達成されるのは一定の温度や湿度などの条件が整った場合のみ。試験場ではできたとしても、酸素が足りない埋立地や温度の低い海の中などでは結局分解されずに残ってしまうのです。実際生分解性プラスチックとして今市場に一番多く出回っているポリ乳酸(PLA)が分解されるには、温度がなんと50度必要です。最終的にそういった条件の揃った工業用の大規模なコンポストにたどり着けばいいのですが、道端や海の中でも分解されるということではありません。自然界のあらゆる環境の中では、生分解性が高いと言われるウールでさえも分解されないこともあります。(*2)フィリピンの浜に瀕死の状態で打ち上げられた鯨の胃の中からは40kgにも及ぶプラスチックゴミが出てきて、その中には生分解性プラスチックの表記があるものもあったとのことです。(*3)

個人レベルで考えても、土に還ると言われても、服庭に埋めないし・・・そもそも庭ないし・・・100歩譲って繊維はいいとしてもジッパーとかボタンとか糸は分解されないし・・・というか日本でゴミ出したら焼却炉行きだし・・・と、はてなマークがどんどん浮かんできます。

このように、現状ではまだ「生分解性」であるということと、実際に「生分解」されることは別の話で、「生分解性です」ということでなんとなく環境に良いようなイメージだけを与えるのであれば、言い方は悪いですがむしろグリーンウォッシュと呼ばれるデメリットでしかないのかもしれません。実際アメリカのカリフォルニア州では、実際には生分解されない「生分解性のビニール袋」を問題視し、生分解性や堆肥化可能という文言を使う際の条件が厳しく決められたり(*4)、ヴォーグなどを抱えるコンデナスト社のビューティー雑誌アルーアではこういった文言の使用を禁止したりする動きもあります。(*5)

ただ、だから生分解性に意味はない!というつもりはありません。この先さらに素材の開発が進んだり天然素材の活用が進んだりするのと同時に、不要になったものを回収して適切な分解がされるシステムが構築され、さらに同時に消費者の意識と行動も変わっていけば、本当にサステナブル=持続可能な循環の社会が到来するのかもしれませんね。そんなに遠くない未来に向かう過程として理想の服や循環システムをイメージしつつ、応援の意味も込めて、生分解性アイテムを暮らしに取り入れていきたいと思います。

*1 Sustainable Japan「【イギリス】マイクロプラスチックの35%は化学繊維由来。英国機械学会、政府に対策求める

*2 Patagonia「プラスチック問題についてパタゴニアが行なっていること

*3テレ東プラス「悲劇!プラスチックごみにクジラが殺される:未来世紀ジパング

*4 State of California Department of Justice
QUICK REFERENCE GUIDE TO “BIODEGRADABLE,” “COMPOSTABLE,” AND RELATED CLAIMS ON PLASTIC PRODUCTS IN CALIFORNIA

*5 WWD 「“地球に優しい”って本当? ビューティ誌「アルーア」がサステナビリティについて幾つかの表現を廃止

Illustration by Luis Mendo

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