2021.10.05
コラム
待つ時間が愛おしい。受注生産ファッション

「ご注文を受けてから作り始めますので、少しお時間をいただきます。」

レストランでたまに目にするこんな文句。服でも同じことができるとしたら、あなたは注文しますか?

毎日をちょっとだけサステナブルにするヒントをお届けするBits&Tips。第3回目は「受注生産ファッション」についてです。受注生産とは注文を受けてから、または期限を決めて注文をまとめて受けてから受注分のみ生産を始めるという意味です。

そう言うと高級品や特殊な商品のイメージがあるかもしれませんが、近年ではそれ程値の張らないものも受注生産方式だったりと、意外と身近になっています。(カスタムできるオーダーメイドやセミオーダーも受注生産ファッションにもちろん含まれますが、ここでは既に決まったデザインを生産前に注文する「プレオーダー」のお話をします。)
そして実はこの方式、ファッションの環境負荷を抑えることにも大きく貢献できる方法なのです。

ファッションが環境に負荷をかけているという話は耳にしたことがあると思います。資源の枯渇や環境汚染とともに大きいのが、過剰生産・大量廃棄の問題です。過去30年間で服の単価は大きく下がり、市場規模も右肩下がりにもかかわらず、供給される服の点数はほぼ倍増(注)。そして、たくさん作られた服の多くが消費者の手に届く前に、または店頭に並ぶ前に捨てられてしまっているとも言われています。たとえオーガニックコットンなどの環境負荷の低い素材を使ったとしても、1着の服には多くの資源がつぎ込まれていることには変わりません。せっかく作っても捨てられてしまうようでは無駄が多すぎですよね。

服を量産するときには、予測に基づいてどのデザインのどのサイズを何着作るという計画を立てます。
未来のトレンド、気候、社会情勢、経済の状況を踏まえて予測を出しますが、ギリギリで作って欠品するよりは多めに作って余らせた方が利益が上がるという構造も影響し、余剰分がどうしても出てしまいます。

そこで受注生産ファッションの出番です。もし、生産開始前に買いたい人から注文を受けその分だけ作れば、ゴミを減らせるだけでなく、不要なものを作るコストも運ぶコストも保管しておくコストも節約することができますよね。

プレオーダー型受注生産の例をいくつか挙げてみます。おっと、個人的にサイトを見るたびに何か欲しくなってしまうのが、スペインのalohasというブランド。レディース向けの靴を中心にオンライン販売しています。このブランドの面白いところは、アイテムの生産時期に合わせて「オンデマンド(プレオーダー)」「すぐに発送」「残りわずか」という区分があるところです。「オンデマンド(プレオーダー)」では注文後に生産が始まるので、数ヶ月待つことになりますが30%オフになります。「すぐに発送」は定価、「残りわずか」ではセール価格になっています。Alohasではプレオーダーでどのデザインやサイズがどれ位売れるかを検証し、それに上乗せする形で生産計画を立てています。洋服以上に生産計画を立てるのが難しく売れ残りリスクが高い靴だからこそのシステム(好きなデザインでもサイズが0.5センチ違かったら買えませんもんね)かもしれませんが、プレオーダーで無駄を減らしつつ、既存システムの「すぐ欲しい」や「セールも楽しみたい」気持ちに応える仕組みもミックスしたアイディアですね。また、日本のイコーランド トラスト&インティメートは2021年秋冬シーズンから受注生産に切り替えています。他にも増えてきていますので、検索してみて下さいね。

ちなみに、受注生産といえど無駄がゼロというわけにはなかなかいきません。というのも、服は綿や繊維の段階から作り始め、糸にし、布にし、染めや加工やプリントをして生地を作り、それをボタンやジッパーなどの副資材を合わせて裁断や縫製をすることで初めて形になります。この間、最短でも数ヶ月。そして受注生産といっても、注文を受けてから繊維を作り始めるということではありません。他アイテムや将来的にも使える汎用的な糸や布の場合は無駄なく利用することができる確率が高まりますが、特注の布やスペシャルな柄の場合はある程度需要予測をしてあらかじめ作っておく必要があります。ですので、「受注生産で無駄を出さない」とはいっても、生産プロセスのどこかでは余りが生じている可能性があります。これは買う側も、そして売る側も頭の片隅に置いておきたいポイントです。


可愛い!素敵!と衝動的に買うのもたまにはいいけれど、数ヶ月先の自分の気分やどんな服を着ていたいかを考えて受注生産の服をプレオーダーをすることは、服の買い方やおしゃれの仕方に計画性と主体性を与えてくれます。誰かが考え出したトレンド予測や衝動に過度に振り回されることなく、小さなことではあるけれど自分で計画して未来を選んでいる感覚、と言ったら大袈裟かもしれませんが。今私は8月にオーダーしたニットのセットアップが12月に届くのを心待ちにしながら、何を合わせようかな、今頃工場で編みに入ったかな、と妄想タイムをゆっくりと味わっています。

袖を通すまでの時間はかかりますが、その分楽しみも増え、無駄も減らせる受注生産ファッション。お買い物の一部にぜひ取り入れてみてくださいね。待つ時間がきっと、あなたにとってスペシャルな1着にしてくれます。

(注)環境省_サステナブルファッションより。

Illustration by Luis Mendo

マルティンメンド 有加
一般社団法人unistepsの理事として、サステナブルファッションに関する教育やコンサルティングに携わる。2011-2019年サステナブルファッションブランドINHEELS代表。
現在はアーティストインレジデンスAlmost Perfectの運営も行っている。

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