INTERVIEW
2022.02.04UP
自分のできることから少しずつ。ミシュラン一つ星レストラン「山﨑」店主のオーガニックの始め方

ご自身のキャリアから生まれた、スタッフさんの職場環境

鎌田:若くしてミシュランの星を取られたのはビジョンなしにはできないことではないかと思います。このお仕事を選ばれたきっかけはどんなことなのですか?

山﨑:小学生のときに、図画工作で賞状をもらったお祝いとして、デパートの上のカウンターで出してくれるお寿司屋さんに連れて行ってもらったんです。それまで回転寿司しか知らなかったのですが、そのお寿司屋さんがかっこよくて、憧れました。すぐにでもなりたいと思ったのですが、両親から全力で高校ぐらいは行きなさいと言われて高校に通ううちに、自分は飽きっぽいから寿司よりも和食の方がいいのではないかと思い始めました。和食の方が食材も調理法も多いですから。フレンチにも心惹かれましたが、フレンチではフランス人もフランス帰りの人もいるなかで一番にはなりにくい。日本人として生まれたのですから、やはり和食がいいなと思い始めました。

小出:納得感がありますね。

山﨑:高校卒業後、専門学校に1年通いました。卒業後は本物志向で、よりきつい修行ができる勤務先を選ぼうと思いました。それで、お給料の低い方へ、低い方へと探したんです。お給料が少なければきついだろうと思いまして。

鎌田:えっ! 変わった考え方ですね(笑)。

山﨑:誰かが「その考え方は違うよ」と言ってくれればよかったんですけれど。大変ハードなお店で、初日で辞めたいと思うほどでした。月給が9万円、寮生活で6畳4人で二段ベッドに暮らし、休みもなく、朝6時に仕事に出て、1時半に職場を離れる毎日だったんです。でも、修行先の店に似た店をやりたいと思っていたので、働くことはそれなりにプラスになると信じて働き続けました。毎月5万円貯めれば、30歳までにお店をやれそうだし、もしそこで失敗して借金まみれになっても、40歳ぐらいでもう一度挑戦できるかなと二段構えの計画を立て、少しずつ貯金していきました。

鎌田:19歳からいつまで働いたんですか?

山﨑:27歳のときに辞めました。8年で溜まったお金が550万円あったので、親から400万円借金し、さらに銀行から1000万円借りて8坪のお店を作りました。今のような広さは借りられなかったのですが、一度来てくれたお客さんがもう一度来てくれるように心がけました。銀行へは10年で返済する計画だったのですが、2年で繰上げ返済し、返し終わった2ヶ月後にもう一度3000万円借りて、このお店を作ったんです。

鎌田:すごい。19歳の時に決めたこと以上のことができていますね。

山﨑:運が良かったと思います。自分は吹けば飛ぶような人間ですが、周りの人が支えてくれました。それから、金銭的には独立後の方が追い詰められてはいましたけれど、修行時に精神面で鍛えられたのは、結果的には非常に良かったと思います。

鎌田:この先の目標は決まっていますか?

山﨑:今ここで働いてくれている人たちが5人います。給与や休み等、自分の修行時代にされて嫌だったことはしないと決めているのですが、その環境に甘んじることなく、ハングリー精神をもってほしいんです。彼らを育てるのは僕ではなくて、彼ら自身が自分で育つと考えているのですが、彼らが育っていく環境を作るのにはどうしたらいいのかを日々考えています。多店舗展開や海外進出など、周りの先輩方がやっていることを見ていますが、まだしっくりくる選択肢が見つかっていないんです。

鎌田:ただ過酷な環境にするのではなく、チャレンジングな何かを一緒にやりたいのですね。

山﨑:そうなんです。ただ、多店舗展開となると誰か一人を料理長にあてがうことになります。すると、上澄みを搾取するようにもなってしまう。繁盛するなら、そのスタッフが自分でやるのが一番いいですよね。でも、こうやったORGABITSで揃いの白衣を作るのは、チームとしてやっていくという意思表示でもあるんですよね。

ミシュランのグリーンスターの基準

鎌田:ところで、2020年からミシュランガイドにサステナブルな経営を実現するレストランやホテルを評価する「グリーンスター」という基準を設けました。それに関してどうお考えですか?

山﨑:もちろん、ないよりはある方が喜ばしいですし、名誉なことだとは思います。「山﨑」にも連絡が来て、ヒアリングをされることもあります。例えば食材を無駄にすることはあるのかと聞かれて、賄いもあるので食材を廃棄することはないと答えるなどはしてはいるのですが、まだ「グリーンスターを取っているからあそこに行こう」というお客さんから評価をいただくほどの価値にはなっていないと感じています。通常のミシュランを取らずにグリーンスターだけとっても価値があるのかと、多くの人が思っているのではないでしょうか。また、通常のミシュランとは違い、グリーンスターの基準は明確にしておいていただいたほうがいいとも思います。

鎌田:評価基準は、フードロス削減、地産地消、コスト削減への取り組み、使用電力の種類、絶滅危惧種の保護などのようですが、数値で客観的にわかるようにしたほうがいいということでしょうか。

山﨑:そうです。基準を設けないと形だけの印象批評になってしまって、一瞬で終わってしまうのではないかと懸念しています。おいしさは人によって感覚が違うかもしれませんが、環境はそういうものではないですよね。また環境に配慮しているレストランはたくさんある方が、より良い社会になっていいのですから、件数を絞る必要もないはずです。みんながグリーンスターを取れればいいと思うんですよ。

鎌田:環境はみんなで頑張った方がいいですもんね。ファッション業界でもサステナブルをイメージで語らないようにしようと言われています。「環境に良さそう」というイメージを打ち出したところを評価するのではなく、二酸化炭素の排出を削減が何%だとか、エネルギー使用量を何%下げたか、修理ができる設計になっているか、リサイクルのしやすさが考慮されているかなどと具体的な実践を明らかにして評価するようになってきています。ミシュラン・グリーンスターももう少しクリアになるといいですよね。

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