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コラム

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病院に現れる道化師「クリニクラウン」が生み出す笑顔の効果とは?

病院に時折現れる、「クリニクラウン」という道化師がいるのをご存知だろうか?

クリニクラウンとは、「Clinic(病院)」+「Clown(道化師)」を合わせた造語で、入院中の子どもたちのところを専門に訪問する道化師のことだ。
2005年11月に日本に登場して以来、じわじわとその活動の場を広げており、オーガビッツでは2011年から支援している。

本来ならば、学校などへ通い、友だちとめいっぱい遊びまわっている時期に、治療に時間を費やしている子どもたち。

特定非営利活動法人「日本クリニクラウン協会」は、クリニクラウンを小児病棟に派遣し、入院している子どもたちと子どもらしい遊びの場を作ることで、笑顔になれる時間を作っている。

日本で初めてクリニクラウンが訪問したのは、大阪にある大阪府立母子保健総合医療センター。それから10年間で、全国64病院、2,262回を訪し、約7万人の子どもたちと関わってきた(*2015年12月現在)。

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クリニクラウンのベースとなるコンセプトは、アメリカで登場した。

1960年代、「心と体の健康には医療・医薬品以外にも必要なものがある」という、ある研修医の着想が起源となっている。科学的な効果の証明はこれからだが、コロンビア大学の調査によれば、病院を訪問する道化師との関わりによって入院中の児童のストレス解消効果、それによる治療に向き合う姿勢の改善が認められ(*脚注1)、現在世界では、ヨーロッパ・アフリカ・アジア諸国に広まっている。

日本では、2004年にオランダ総領事館がクリニクラウンオランダ財団の活動を紹介したのがきっかけで誕生。現在日本のクリニクラウンは、総勢24名。運営は主に寄付によって行われている。

実際にその現場へ

7月初旬の、とある暑い日。

実際にクリニクラウンの力とはどんなものなのか? それを追って、千葉県こども病院を訪ねた。

ここは、県内の小児医療の中心的な役割を担っており、専門的な医療が必要な子どもたちの診断・治療を行う小児専門病院。

今回、同病院を訪問するクリニクラウンは、上原英幸さん(うえ)と川島由衣さん(きゃしー)。循環器内科と整形外科の2つの病棟を訪問する。

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クリニクラウンの病院訪問は、まずカンファレンス(打ち合わせ)から始まる。病棟の概況、子どもたち一人ひとりの状態など、病棟の一部屋ずつ確認していく。

カンファレンスは、さながら看護師どうしで引き継ぎをするときのように、詳細な内容であることに驚く。

「病気に対する不安が強そう」「ストレスのせいか、子育ての様子に心配がある」 ――なにより驚くのは、子どもたちの状態だけでなく、大人であるその家族の様子もシェアし、関わりの希望を伝えるのだ。

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病棟のマップに、一部屋ずつ説明を受けた内容を書き出していく。「これはクリニクラウンに欠かせないもの。子どもたちと安心・安全に関わるために必要なんです」と、川島さん。
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クリニクラウンが鞄に入れて持ち歩くおもちゃの一部。人形やオルゴール、皿回し用のお皿など。全て消毒して病棟に持ち込むのがルール。


なぜ、「子どもを笑顔にするための」クリニクラウンなのに、大人も……?

日本クリニクラウン協会事務局長補佐の熊谷恵利子さんは、次のように説明する。

「クリニクラウンは、子どもだけでなく、一緒にいる大人への関わりも大事にしています。病院で大人が声をあげて笑うことって、あんまりないですよね。でも、大人が笑うと、子どもの緊張が和らぐ効果があります。」


いざ! 病棟へ!

カンファレンスを終えた二人のクリニクラウンは、最後の準備を始める。消毒液を全身に振りかけ、トレードマークの赤鼻をつければ、もう上原さん・川島さんではない。クリニクラウンの「うえ」であり、「きゃしー」だ。

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「こんにちは〜!!」

二人が踊るように病棟に飛び込むと、子どもたちはすぐさま駆け寄ってきた。

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定期的に訪れているので、すっかり馴染んでいる子たちも多く、「あとで来てよ」と声を掛けたり、早速いたずらをしかけてみたり。
クリニクラウンを初めて見て緊張している子、遠目から眺めている子もいれば、そっと追いかけて様子を探っている子も。子どもたちの反応は実にさまざまだ。

この病院に入院しているのは、重度の心臓疾患や骨の再生などで、長期入院が必要な子どもたちも少なくない。

しかし、生まれて数カ月の乳児から、人見知りの激しい子、17歳のイマドキ高校生まで……うえときゃしーは、どんな子どもも惹きつけていく。

皿まわしに手品はもちろん。オルゴールを回したり、スカーフでゲームをしたり、ハーモニカを吹いて歌を歌ったり、コントのようにおどけてみたり……。
子どもたちと遊びながら、うえときゃしーは、一つひとつの部屋を順番に回っていく。
すぅっとさりげなく。だけどガッチリと子どもたちを引き込む様子は、まるで魔法のようだ。

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「子どもたちの今の気持ちを感じ取って関わり方を変えているんです。例えば、子どもたちのテンションが上がっているようであれば、それに合わせて積極的に子どもたちに関わります。でもテンションが低めならば、ソフトな関わりからスタートします。」と、きゃしー。
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「クリニクラウンを追ってついて来ている子どもたちは、遊びたいけど別の子どもが入院している病室の中には入れない。だから、ドアのところにたまっている子どもたちにも見えやすい遊びをして、部屋の外と中をつなげてあげるんです。そうすることで、離れていても外の子たちと病室の子どもたちが交流することができます。外の反応につられて部屋の中のお子さんの気持ちも前向きになってくる効果もあります。」
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大人が笑顔になる意義

笑顔の子どもたちと、クラウンたちの愉快な様子に、看護師さんたちもニコニコだ。

「最初クリニクラウンを見たときは驚きました(笑)。
でも子どもたちだけじゃなく、スタッフも笑顔になれますね。やはり、子どもやお子さんが笑顔になると、私たちまで楽しくなるので、ありがたいです。」

そう話すのは、同病院の看護師・木村さん(仮名)。クリニクラウンたちの子どもとの関わり方は、看護師としても学びが多いとも。

「幼い子なら人見知りもありますし、思春期の子なら、その時期特有の『冷めた』態度の子もいます。クリニクラウンのみなさんは、一人ひとりの状態を本当によく見ていて、上手に距離を縮めていくんです。様子を見ながら、即座に、柔軟に判断して、一人ひとりに適切な関わり方をしているのは、私たちにとっても勉強になります。」

子どもたちも、「クリニクラウンおもしろい」「来るのが楽しみ」と口を揃える。

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生後6カ月の赤ちゃんにオルゴールを聴かせるクリニクラウン。赤ちゃんが、目で一生懸命追いかける。


同病院の循環器内科に赤ちゃんが入院する中田さん(仮名)は、「ママのほうが元気をもらっている、というママも多いんじゃないかな」と話す。

中田さんの赤ちゃんは、生まれた直後から心臓疾患のために入院して、いま半年になる。

「クリニクラウンさんには、ママたちのほうが元気をもらってるんじゃないかな。子どもが入院していると、なにかを楽しむっていうことが、なかなか日常の中で難しくなっちゃう。毎日病院に通っていると、子どもと一緒に『わぁ!楽しいね!』って言い合ったりする時間もあまりないので……。こういう時間があると、ママたちのほうが、癒やされてたりするのかなって思います。」

専門家によれば、病気で入院する子どもは、自責の念を抱きやすいという。「親に心配を掛けてしまった」「みんなに迷惑を掛けてしまった」と、自分を責めてしまうのだ。そこで子どもにとって、クリニクラウンを見て大人が笑っている様子を見ることは、そうした罪悪感を解消でき、いっそう安心する効果があるのでは、とも。

病気と闘うのは、当人だけではない。

クリニクラウンが作る笑顔とは、当人とまわりの大人が一緒に病気に立ち向かうためのパワーの源なのだ。

子どもたちも楽しい方法で広げたい

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3時間近くにわたる訪問の後、再び看護師のみなさんとカンファレンス。どのような関わりを意識したかとその反応を細かく報告。


日本クリニクラウン協会は、2016年に10周年記念事業として、韓国やタイの病院への訪問も実施した。

言葉の壁によって、子どもの心の繊細な動きが分かりにくいという難しさはあるが、「子どもらしい時間を過ごす重要性は、どの国でも同じ」と、前出の熊谷さんは言う。

「驚いたり興味津々にじっと見ていたりと、子どもがいきいきとした表情見せたり、はしゃいだりしているのを見ると、大人にとっては嬉しい。子どもにとっては純粋に楽しい。それは、国が違っても同じですね。安心して自分を出せる空間は、どの国・どんな状態の子どもにも必要なものだと思います。」

2011年からこの活動をサポートしてきたオーガビッツ。子どもたちも楽しい方法で、これからも活動を広めていきたいと話すのは、オーガビッツ・中村さんだ。

「実際に活動を見て、もし自分の子どもが病気になったら、クリニクラウンさんに来てほしいと思いました。
子どもたちに人気のキャラクターなどを絡めて、子どもたちにも『アレッ?!』と楽しんでもらえる方法で、この活動をサポートしていきます。」

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「日本クリニクラウン協会」についてもっと詳しく……
→http://www.cliniclowns.jp/

(取材・文/Fragments、写真/Yuki Inui)

脚注1:Slater J, Gorfinkle K, Bagiella E, Tager F, Labinsky E. Child Behavioral Distress During Invasive Oncologic Procedures and Cardiac Catheterization with the Big Apple Circus Clown Care Unit. Columbia University (NY): Rosenthal Center for Complementary and Alternative Medicine; 1998.